東京地方裁判所 昭和42年(行ウ)156号 判決 1978年3月23日
原告 宗教法人光明院 外一四名
補助参加人 延命寺 外二六二名
被告 東京都知事 北区田端復興土地区画整理組合
主文
一 被告東京都知事が被告北区田端復興土地区画整理組合の設立について昭和三三年一〇月一八日付でした設立認可は無効であることを確認する。
二 原告らと被告北区田端復興土地区画整理組合との間において、同被告の設立は無効であることを確認する。
三 訴訟費用及び参加によつて生じた費用は被告らの負担とする。
事実
第一当事者の求める裁判
一 原告らの請求の趣旨
主文と同旨
二 請求の趣旨に対する被告らの答弁
(一) 被告東京都知事
(1) 原告らの被告東京都知事に対する請求を棄却する。
(2) 訴訟費用は原告らの負担とする。
(二) 被告北区田端復興土地区画整理組合
(1) 原告らの被告北区田端復興土地区画整理組合に対する請求を棄却する。
(2) 訴訟費用は原告らの負担とする。
第二原告らの請求原因
一 原告宗教法人光明院、同宗教法人大龍寺、同遠山三郎、同川野愛次郎、同浜野秀雄、同島喜一、同橋本国松、同太田宏、同遠山泰司、同三橋亥之助、同横山晴一(亡横山亀治郎訴訟承継人)、同岡村秀子(亡大木金太郎訴訟承継人)及び同渡辺実(前同)は、被告北区田端復興土地区画整理組合(以下「被告組合」という。)の行なう土地区画整理事業の施行地区内に宅地を所有する者であり、その余の原告らは右施行地区内の宅地に借地権を有する者であつて、原告らはいずれも土地区画整理法(ただし昭和四三年法律一〇一号により改正された条項については、その改正前のもの。以下「法」という。)二五条の規定に基づき、被告組合の設立によつて現にその組合員とされるに至つた者である。
二 被告組合は、東京都北区田端町、中里町、西ヶ原町、豊島区駒込二丁目、同三丁目の各一部にわたる約一二五、〇〇〇坪(正確には一二四、一八七坪八三)の地域を土地区画整理事業の施行地区として、昭和三三年一〇月一八日付で被告東京都知事(以下「被告知事」という。)から法一四条、二一条一項に基づく設立についての認可(以下「本件認可処分」という。)を受け、その公告がなされた土地区画整理組合である。
三 ところで、右施行地区を含む二五〇、〇〇〇坪余の区域については、従前これを施行地区として昭和二三年三月一三日付被告知事の認可により設立された田端復興土地区画整理組合があつたのであるが、その一部組合員が右組合及び被告知事に対し、組合の設立無効確認及び設立認可処分無効確認を求める訴訟を提起し、これにつき東京地方裁判所は、昭和三〇年六月三〇日、組合設立の要件である同意者数が法定要件を満たしていないことなどを理由として右請求をすべて認容する判決をし、その控訴審である東京高等裁判所も、昭和三三年一月三一日に一審判決を支持して控訴棄却の判決をして、右判決はそのころ確定し、右組合の設立は無効であることが確定した(設立が無効であるとされたこの組合を以下「旧無効組合」という。)。
ところが、旧無効組合の一部組合員らは、昭和三一年二月ころから前記訴訟で同組合が敗訴することを見越して、これを収拾するため旧無効組合の施行地区(二五〇、〇〇〇坪余)をそのまま施行地区とする北区田端復興土地区画整理組合(被告組合と同一名称のこの組合を以下「第一次新組合」という。)を設立しようと運動し、その申請に基づき被告知事は、昭和三一年一一月二九日付東京都公報(第一、六一一号)により法一九条二項に基づく施行地区となる区域の公告をするに至つた。しかし、右組合員らの設立運動にもかかわらず、その後一年を経過するも第一次新組合の設立については施行地区の宅地の所有者等から法一八条所定の数の同意を得ることができず、その設立計画は結局失敗に帰し、被告知事は昭和三三年四月二二日付東京都公報(第一、八二三号)により前記公告の取消公告をした。
そこで、旧無効組合の組合長であつた長岡慶信らは、前記取消公告がなされる以前から、旧無効組合の施行地区のうち約半分にあたる一二四、一八七坪八三の地域を新たな施行地区とする第二次新組合である被告組合の設立を計画し、その申請に基づき被告知事は、昭和三三年四月二二日付東京都公報(前記取消公告と同じ第一、八二三号)により法一九条二項に基づく施行地区となる区域の公告をした。そしてその後長岡らは、被告組合の設立について施行地区内の宅地の所有者及び借地権者から法一八条所定の数の同意が得られたとして、被告知事に対し設立認可の申請を行ない、被告知事は前記のとおり昭和三三年一〇月一八日付で本件認可処分を行ない、これを公告した。
四 しかし、本件認可処分は、次の理由によつて無効というべきである。
(一) 法一八条は、土地区画整理組合の設立の認可を申請しようとする者は、定款及び事業計画について施行地区となる区域内の宅地の所有権者及び借地権者のそれぞれ三分の二以上の同意を得なければならないと規定しているところ、被告組合の施行地区においては設立認可申請当時の宅地所有権者総数は六一九名であり、また法一九条三項による申告のあつた借地権者総数は一一五名であつた。したがつて、被告組合の設立については、宅地所有者の三分の二以上である四一三名及び借地権者の三分の二以上である七七名の同意が最低限必要となるのであるが、被告組合は、その認可申請にあたつて、宅地所有権者のうち四四八名(法定数を三五名超過)、借地権者のうち一一五名(法定数を三八名超過)の同意が同意書によつて得られたとしてこれを行ない、被告知事も本件認可処分をしたものである。
(二) しかし、被告組合が同意書によつて同意を得たとする宅地所有権者四四八名のうち、別紙非同意者目録(以下これを単に「別紙」という。)(一)ないし(四)記載の1ないし77の合計七七名については、以下のとおり有効な同意があつたとはいえないから、これを同意者数に算入することはできない(別紙(一)ないし(四)記載の非同意者の住所は、原則として現住所であり、必ずしも同意書に記載されてある住所とは一致しない場合もある。なおその場合は同意書記載の住所を括弧書きで示すこととする。)。
(1) 法一九条二項の公告前の同意 一名
別紙(一)の1
同意書の日付が、被告知事の施行地区となる区域の公告がなされた昭和三三年四月二二日より前である昭和三二年六月二〇日となつており、被告組合についての同意とは認められない。
(2) 未成年者の同意 五名
別紙(一)の2ないし4、別紙(四)の76、77
以上はいずれも未成年者の名義により同意書が提出されている(ただし別紙(四)の76は共同相続人二名のうち一名が、また77は共同相続人四名のうち三名が未成年者である。)が、未成年者については親権者など法定代理人の同意でなければ、有効な同意があつたものということはできない。
(3) 死者の同意 一一名
別紙(一)の5ないし8、別紙(二)の56ないし58、別紙(三)の67ないし69、別紙(四)の75
以上はいずれも同意書に記載されてある日付(作成日付)の当時すでに死亡していたものであるから、死者名義の同意書は、同意者の数に加えるべきではない。
(4) 共同相続人のうち一人の同意を欠くもの 一名
別紙(三)の70
右は共同相続人四名のうち三名だけの名義による同意書であるから、有効な同意とはいえない。
(5) 借地権者としての同意 一名
別紙(三)の71
右は同意書の文言上借地権者としての同意となつており、宅地の所有権者としての有効な同意があつたということはできない。
(6) 無断流用あるいは無断作成の同意書による同意
五八名
別紙(一)の9ないし55、別紙(二)の59ないし66、別紙(三)の72ないし74
以上は、第一次新組合設立の際に提出した同意書が、被告組合の設立に際して提出者にまつたく無断で流用されたり、あるいは同意したとされる者が実際にはまつたく関知せずに作成された同意書によるものであつて、いずれも同意者とされる者は、被告組合の設立についてはなんら同意を与えていないのであるから、有効な同意者数に加えるべきではない。
(三) 法一八条の規定する法定数の同意は、土地区画整理組合の設立認可申請にあたつての絶対的な要件であつて、これを欠く申請に対する認可処分は当然無効であるといわなければならない。しかるに、本件においては宅地所有権者総数六一九名のうち同意があつたとされる四四八名について、前記のとおり有効な同意とは認められない者が七七名含まれていることになり、その結果被告組合の設立については宅地所有権者の三分の二以上の同意を欠いていることが明らかである。
したがつて、被告知事のした本件認可処分は、その前提となる設立認可の申請が法一八条所定の要件を欠くものであつて、無効である。
五 本件認可処分は、また次の理由によつても無効であるというべきである。
すなわち、土地区画整理組合設立の認可申請にあたつて必要とされる施行地区の宅地所有者等の同意は、設立しようとする組合の定款及び事業計画についての同意であることを要する(法一八条)ものであるところ、本件において、被告組合の設立運動をしていた者たちは、右同意を求めるに際してその定款及び事業計画を宅地所有者等に対しまつたく示していないのである。
したがつて、そのような状況でなされた宅地所有者等の同意は、法一八条の要件を欠くものであつて、これを前提とする被告組合の設立行為は無効というべきであり、したがつてまた本件認可処分も無効であるといわなければならない。
六 以上のように本件認可処分はいずれにしても無効であり、同様に被告組合の設立もまた無効であるというべきであるが、被告組合は現実にその施行地区において事業を行ない、原告らの権利を侵害している。
七 よつて原告らは、被告知事のした本件認可処分が無効であることの確認、及び被告組合に対しその設立が無効であることの確認を求める。
第三補助参加人らの主張
別紙補助参加人目録(一)記載の一ないし六二の者は、被告組合の施行地区内に宅地を所有する者であり、同目録(二)記載の六三ないし二六三の者は、同地区内の宅地について借地権を有する者であつて、いずれの補助参加人らも本件訴訟の結果につき重大な利害関係を有している。したがつて、補助参加人らは、本件訴訟において原告を補助するため参加するが、その主張等については、原告らの請求の趣旨及び請求原因をすべて援用する。
第四請求原因に対する認否及び補助参加に対する意見(被告ら)
一 請求原因一ないし三の事実は認める。
二 同四ないし六の原告らの主張は争う。ただし、同四(一)のうち、被告組合の設立認可申請にあたつて、その施行地区内の当時の宅地所有権者総数が六一九名、借地権者総数が一一五名であつたことは認める。被告組合は、その設立にあたつて、宅地所有権者四四八名(別紙(一)ないし(四)の1ないし77の者を含む。)、借地権者一一五名の有効な同意を得たものであつて、法一八条の要件に欠けるところはない。
なお、別紙(一)の1の同意書が被告組合の施行地域となる区域の公告前の日付で提出されていること、別紙(一)の2ないし4の同意書が未成年者名義となつていること、別紙(一)の5ないし7、別紙(二)の56、57及び別紙(三)の67ないし69の同意書の名義人がその作成当時すでに死亡していたことは、いずれも認める(もつとも、以上の各同意書が法一八条の同意として有効であると解すべきことは後記の被告組合の主張のとおりである。)。
三 補助参加人らの補助参加について異議はない。
第五被告らの主張
一 被告知事の主張
(一) 法二一条によれば被告知事は、土地区画整理組合の設立認可申請があつた場合には、同条一項各号に掲げる事項に該当する場合以外は、これを認可しなければならないものとされている。
そこで、本件認可処分にあたり、原告らの主張するような右条項一号に該当する法令違反があつたか否かについてみるに、被告知事が右法令違反の有無を審査するにさいしては、申請者から提出された認可申請書等をその対象とするものであるところ、土地区画整理法施行規則二条四項は、申請者が法一四条の認可を申請する場合の申請書に添付すべき書類を定めており、右添付すべき書類の一つとして、法一八条に定める「定款及び事業計画に関する宅地所有者及び借地権者の同意」を得たことを証する書類、すなわち同意書を要するものとしている。
ところで、右施行規則には、同意書の具体的内容、様式等についてはなんら明示されていないため、被告組合の認可申請書に添付された当初の同意書は同意者の連名簿に申請者が同意者に相違ない旨付記したものであつたが、被告知事はかかる同意書では不十分であると判断し、右申請者に同意書の原本の表示を求めてこれを審査したところ、法一八条に定める法定数以上の同意があることが確認された。
(二) 以上のとおり、被告知事の右審査は、法令の定めるところに従い申請者から提出された書面によりなされるものであり、したがつて、同意書に印鑑証明や戸籍謄本の添付が義務づけられているものでない以上、原告らの主張する事実の有無は別として、仮にかかる事実を被告知事が知らないで本件認可処分をしたとしても、これを以て直ちに、被告組合の設立行為の効力を完成せしめるためになされた補充的意思表示としての本件認可処分自体に瑕疵があるとすることはできないのである。
(三) すなわち以上を換言すれば、組合設立の認可申請に添付されている同意書に対する被告知事の審査は、原則的には同意者の連名簿に申請者が同意書に相違ないと付記したものを、同意書の原本と照合して確認する形式的審査にとどまるものである。本人の意思の確認としては、通常はそれで十分であり、それ以上に同意書が本人の真意によるものか否かについて、実体的に組合員の意思を個々的に確認する必要はないというべきである。
被告知事は、被告組合の設立認可申請に対して、その同意書について前記のとおり十分な審査を尽したのであつて、仮に原告ら主張のような事実があつたとしても本件認可処分が違法あるいは無効ということはできない。
二 被告組合の主張
(一) 被告組合設立の経緯について
被告組合の現在の施行地区を含む二五〇、〇〇〇坪余を施行地区とする旧無効組合は、原告らの請求原因にもあるとおり、判決によりその設立が無効とされるに至つたのであるが、当時同組合はすでに相当程度の事業を施行していたため、これをそのまま放置することは関係者らにとつて許されない状況にあつた。そこで旧無効組合の施行地区内の町内会長らの有志が中心となり、旧無効組合の事業を継承して執行するため第一次新組合の設立運動が行なわれたが、右設立運動は結局のところ設立認可申請に必要な宅地所有者の同意者数が不足して結実することなく挫折した。しかし、旧無効組合の施行地区のうち、その事業が四〇パーセント(地区によつては七〇ないし八〇パーセント)程度完了していた被告組合の現在の施行地区においては、なお新組合設立の見込みがあり、しかも事業続行の必要性が大きかつたため、旧無効組合の施行地区を約半分にしたうえで、被告組合の設立運動が行なわれ、その結果これが設立されるに至つたのである。
したがつて、被告組合の設立については、旧無効組合の設立失敗をふまえて、後記のとおり設立準備活動に誤りのないことを期したものである。
(二) 同意書のとりまとめについて
被告組合設立にあたつての法一八条に基づく同意書のとりまとめについては、旧無効組合が法定の同意者数を得られていなかつたという理由で判決により設立が無効であるとされたこともあり、また東京都からも厳重な注意や指導があつたこともあつて、被告組合の設立準備委員は、数回にわたつて会合をもち、その具体的方法を打合せた。そしてその結果、施行地区内については、各町内会関係分について当該町内会関係の設立準備委員が同意書をとりまとめ、地区外の者については各地域ごとに担当者を指定して、そのとりまとめを担当させることになり、このようにして所定の同意書が集められた。
なお、前記のように結局設立に至らなかつた第一次新組合の設立運動の際に集めた同意書があつたので、被告組合の設立準備員は、右の同意書を提出した者に対しては新たな定款及び事業計画等の関係書類を配布して説明を行ない、被告組合の設立について新たに同意をとり直したうえで、その了解に基づき被告組合に対する同意書として右の同意書を流用したものもあつた。
(三) 法一八条所定の同意の性質とその効力について
法一八条所定の宅地所有権者の同意は、土地区画整理組合の設立に同意する旨の公法上の意思表示であるが、その所有土地に対する関係においては管理行為というべきであつて、処分行為ではない。したがつて、右の同意は、管理行為として無効でない以上は有効な同意であつて、原告らが同意として無効であると主張するものについても、右の観点から決すべきである。
また、法一八条は、組合設立認可申請の要件として、宅地所有者の三分の二以上の同意を得なければならないと規定しているが、一筆の土地が共有である場合は、共有者の三分の二以上の同意があれば同意としては有効であると解すべきである。
(四) 原告ら主張の無効な同意(請求原因四)について
(1) 原告らが法一八条所定の宅地所有権者の同意として無効であると主張する者の中には、原告組合の設立に際し、新たに定款及び事業計画等について説明を受け、これに同意して同意書を提出したことを本訴提起後に明らかにしたものが二六名あり、また、同意書提出後間もなく昭和三三年一〇月二七日に開催された被告組合の創立総会に参加出席し、設立を支援した者が多数いる。被告組合設立について明らかに同意したと認められる前記二六名はもとより、創立総会に出席した者も、被告組合の定款及び事業計画を承知し、これに賛成して出席したものとみるべきであつて、これらの者はいずれも被告組合の設立について真意に基づき同意書を提出したものであつて、原告ら主張のように無効な同意ということはできない。このことは、創立総会の出席者には、被告組合設立に反対した者がいなかつたということからも明らかである。
なお、被告組合の第二回総会(昭和三八年一二月八日開催)に出席した者についても、右と同様に解すべきである。
(2) 法一九条二項の公告前の同意について
別紙(一)の1高木義正の同意書の日付が、被告知事の法一九条二項に基づく公告より前になつているのは、第一次新組合の設立に際して提出した同意書を被告組合のために流用する際に日付訂正を脱漏したためである。同人は、被告組合の定款及び事業計画の説明を受けて、これに同意して同意書を提出したのであり、さらに昭和三三年五月一五日付同意書を別に追完しているのであるから、その同意を無効ということは失当である。
(3) 未成年者の同意について
未成年者名義の同意書は、土地登記簿の記載がそのようになつていることから、被告知事に対する設立認可申請の際に、被告知事の権利調査書の名義と一致するように配慮したためであり、同意自体については法定代理人たる親権者から得たものであつて、これを無効な同意ということはできない。
なお、別紙(四)の76、77の者については、共有者の一部が未成年者であるが、前記(三)で述べたとおり他の共有者の所定の同意がある限り、同意が無効となることはないから、この点でも原告らの主張は理由がない。
(4) 死者の同意について
死者名義の同意書は、いずれもその相続人から同意を得たもの、あるいは相続人から提出があつたものであつて、これを無効とすることは失当である。同意書に死者名義で表示した理由は、前記(3)の未成年者の場合と同様である。
なお、別紙(一)の8浅香安右衛門の同意書は存在しない。これに相当するのは「浅香金太郎相続人浅香定四郎」の同意書である。また、別紙(二)58佐藤ハルジの同意書は、同人の同居の継子である真貝泰子がその相続人と誤信して作成したものである。
(5) 共同相続人の一人を欠く同意について
別紙(三)70について共有者の一人に不同意者があつても、同意として有効であることは前記(三)で述べたところから明らかである。
(6) 無断流用とされる同意書について
別紙(一)の9、10、13、18、21、26ないし29、31、32、34ないし37、39ないし41、別紙(三)の74などの者は、いずれも被告組合の設立に同意あるいは賛成していることが明らかであつて、これらの者について第一次新組合についての同意書を無断流用したということはできない。原告らが無断流用されたと主張する他の者についても事情はほぼ同様であり、無断流用がなされた同意書は存在しない。
(五) 被告組合の定款及び事業計画(請求原因五)について
被告組合の設立については、昭和三二年末ころから昭和三三年春ころまでの間に、施行地区内の町内会会長らが被告組合の設立準備委員となつて、東京都建設局区画整理部の指導を受けて、その定款及び事業計画を作成し、これに基づき数回にわたり各町内会ごとに説明会を開き、あるいは文書を配布するなどして、その内容についての周知徹底を図つたものである。
したがつて、被告組合の設立に際して同意書を提出した者は、定款及び事業計画を十分承知して、これについて同意したものであつて、定款及び事業計画について同意を得ていないとする原告らの主張(請求原因五)は失当である。
(六) 予備的な主張
(1) 仮に、前記同意書の一部に被告組合の設立認可申請についての法一八条所定の同意として無効なものが含まれていたとしても、被告組合の認可申請時における施行地区の宅地所有権者総数は六一九名であり、その三分の二以上は四一三名であるところ、被告組合が得た同意書は四四八名についてであつたのであるから、無効な同意書が両者の差である三五名にとどまる場合には、被告組合の設立が無効となるものではない。
(2) さらに、仮に有効な同意が宅地所有権総数の三分の二以上である四一三名を欠く場合があるとしても、その数はせいぜい数名程度であるから、このような場合には被告組合の設立あるいは被告知事の本件認可処分が無効であるとすべきではない。
すなわち、被告組合は、その設立後昭和五一年七月末ころまでの間に、事業計画に従つて事業をすすめ、施行地区内の大部分の関係者等の理解と協力のもとに移転事業を完了し、あとは換地処分を残すのみの段階になつている。しかして、被告組合の行なつた事業の概要は、次のとおりである。
<1> 区域 約一二四、〇〇〇坪
<2> 当初の土地所有者 六一九名(現在約八〇〇名)
<3> 世帯数 約三、〇〇〇世帯余
<4> 区域内人口 約六、〇〇〇名余
<5> 家屋移転数 三八〇棟以上
うち強制移転(横山種三郎外、関係人の希望によるもの一件)
二件
<6> 工作物移転 一、〇〇〇件以上
うち強制移転(原告光明院二件、同遠山三郎、同川野愛次郎、同浜野秀雄、同遠山泰司各一件)
六件
したがつて、もし仮に今日に至つて被告組合の設立あるいは本件認可処分が無効とされるならば、これによつて混乱を受ける関係人は非常に大勢であり、しかも原状回復は事実上不可能であり、収拾すべからざる事態となることは極めて明らかである。そして、その解決には、相当な年月と費用を要することもまた当然である。しかるにこれに反し、原告らの得るところは実質上何も存在せず、原状回復が行なわれたとしても、道路に面しない宅地が生ずるなどかえつて不便や混乱をきたすのみである。
そして、以上のような当事者あるいは利害関係人の利害得失を公益的見地から比較考量するならば、最高裁判所が、違憲な公職選挙法に基づく選挙であることを理由とする選挙無効訴訟において、行政事件訴訟法三一条一項の法意にのつとり、当該選挙は違法であるがこれを無効とすべきではないとした(昭和五一年四月一四日判決、民集三〇巻三号二二三頁)のと同様に、仮に被告組合の設立について、法一八条所定の同意に一部欠けるところがあつたとしても、原告らの請求は、行政事件訴訟法三一条一項の法意により、棄却されるべきといわなければならない。
第六被告らの主張に対する原告らの反論
一 被告知事の主張について
被告知事は、土地区画整理組合の設立認可申請に対する被告知事の審査は形式的審査にとどまるものであつて、本件認可処分が違法あるいは無効ということはないと主張するが、右主張は以下のとおり失当である。
(一) 被告知事は、被告組合の設立認可申請に関し、東京都の区画整理部長から建設省計画局区画整理課長に対し、法一八条による同意は第一次新組合とは別に新たにとりなおすべきか、また第一次新組合についての同意書を変更した定款及び事業計画について確認させ、日付を訂正したうえで流用することの可否等の点について問合わせ、同課長から、法一八条による同意については新たな同意を得なければならないとの回答を得た。古い同意書の流用であつても、その同意者が新たな組合の定款等を確認して同意したことが判明すれば司法的には必ずしもその同意は無効とはいえないとしても、行政の問題としてはそのような事態は望ましくないのが当然であるから、建設省の前記回答の趣旨は、第一次新組合についての同意書を被告組合についてのものとして流用することを認めないものと解される。
しかるに被告知事は、建設省の前記回答の趣旨に反し、第一次新組合の設立失敗による事態の収拾をあせるあまり、被告組合の設立運動を積極的に指導し、法定の同意者数を達成しやすくするため、被告組合設立運動者らが第一次新組合についての同意書を流用することを認めたのであり、以上の点から、被告知事と被告組合設立運動者らは、同意書の流用ということに関しては当初から共謀関係にあつたものということができるのである。したがつて、被告知事には、本件において同意書の無断流用を許したことについて、故意、または少なくとも重大な過失があつたのであり、その責任を免れることはできない。
(二) しかも、被告知事の被告組合設立認可申請に対する審査それ自体も杜撰なものであつた。
すなわち、旧無効組合は法定数の同意を実際は得ていなかつたことから判決で無効とされたのであるから、同一地域に関するこの前例にかんがみれば、被告知事としても被告組合の設立認可申請についてはその同意書について十分な審査を行ない、同意したとされる者の真意に基づく同意が得られているか否かを確認すべきであるのに、被告知事は、旧無効組合の行なつた事業を被告組合の設立によつて収拾することを急ぐあまり、死者や未成年者名義の同意書という形式的な瑕疵さえ見逃すような杜撰な審査に基づき本件認可処分を行なつたのである。
(三) 以上要するに、被告知事の本件認可処分には、それ自体瑕疵があり、その瑕疵は重大かつ明白であるから、したがつてこの点においても本件認可処分は無効といわなければならない。
二 被告組合の主張について
(一) 同意書のとりまとめについて被告組合は、第一次新組合の際の同意書については、新たな同意をとり直したうえで了解に基づき被告組合に対する同意書としたと主張する(被告らの主張二(二))。
しかし、右主張は以下のとおり失当であり、同意書は無断で流用されたものと解せられるのである。
(1) 被告組合は、施行地区の範囲を異にする第一次新組合とまつたく同一の名称であるが、これは第一次新組合の際の同意書をそのまま流用しようとする意図が当初からあつたことによるものと解される。
(2) 被告組合に対する同意書は、大半が第一次新組合のときに作成した用紙であり、日付の訂正により一見して第一次新組合の同意書が流用されていることが明らかなものが一一二枚、日付空白のところに一見して八人による共通筆蹟で日付記入がなされていることが明らかなものが三〇二枚あり、四四八枚の同意書の大部分は流用されたものである。
そして、第一次新組合の際の同意書のうち、日付が空白であつたものは、旧無効組合の職員らがまとめて日付を記入したため、同一筆蹟による多数の同意書となり、また日付記入があり捨印がないものは、日付の記載を上から墨筆で訂正したり、逆に捨印があつたものは、捨印を利用した適宜に日付を訂正したため、日付訂正印が訂正箇所と不自然に離れたりしているのであるが、これらはいずれも同意者に無断で日付の記入ないし訂正が行なわれていることを物語つているものである。
したがつてまた同意書自体も被告組合に対するものとしては無断で流用されていることが明らかである。
(3) また、被告組合の設立運動者の権利調査は極めて杜撰であり、たとえば死者や未成年者を同意者として取扱つている。これは同意書を提出した者あるいは設立運動者の法的無知ということではなく、設立運動者は、実際は同意者とされた者のところに同意をとるために訪れていないことを示していると解されるのである。したがつて、この点からも同意書が無断で流用されたということは明らかであるといわなければならない。
(二) 法一八条所定の同意の性質と効力について
被告組合は、法一八条による宅地所有権者の同意は、その所有土地に対する管理行為であると主張する(被告らの主張二(三))が、右の同意は、組合設立に対する同意というだけではなく、その所有する土地を土地区画整理組合に編入し、減歩や整理をされることを承認する趣旨を含む法律行為であるから、これを処分行為と解さなければならない。したがつてまた、宅地の共有について民法二五二条と同旨の規定がないことは、一筆の宅地の共有の場合は共有者全体を一として取扱うことを法の前提としたものであると解されるのである。
(三) 無効な同意の追認、追完の可否について
法一八条所定の宅地所有権者の三分の二以上の同意は、設立認可申請のときに満たされていなければならず、その後の追認あるいは追完により、本来無効であつた同意が有効なものに転換することはないとしなければならない。
また、被告組合の創立総会やその後の総会に出席(委任状の提出を含む。)したとしても、その者が設立に際しての同意を追認あるいは追完したということはできない。なぜなら、設立に同意しなくとも施行地区の宅地所有者は、設立された土地区画整理組合では法により強制的に組合員とされるのであるから、組合が形式的に成立した以上その総会に出席することは通常だからである。まして、総会に出席したということから、被告組合の設立に際しても当初から法一八条による同意をしていたということができないことは明らかである。したがつて、右の点に関する被告組合の主張(被告らの主張二(四)(1))は失当というほかない。
なお、被告組合が行なつている現在の事業について賛成であるか否かということは、被告組合の設立にあたつて法一八条所定の同意をしたか否かということとは直接関係ないのであつて、右の同意をしなかつた者が、組合員として被告の事業に反対していないという事実があつたとしても、右事実は、本件認可処分及び被告組合の設立が無効であるとする結論に影響しないことは明らかである。
(四) 未成年者あるいは死者名義の同意書について
被告組合は、未成年者名義による同意書であつてもそれが法定代理人、親権者によつて作成提出されたものであれば、また、死者名義による同意書であつてもそれが実際の相続人によつて作成提出されたものであるならば、いずれも有効な同意があつたものであると主張する(被告らの主張二(四)(3)及び(4))。
しかし、法一八条所定の同意が法定数を満たして土地区画整理組合が公権力を行使する団体として設立されたならば、施行地区内の宅地所有者は右同意の有無にかかわらず強制的に組合員とされ、組合から換地、清算金徴収の処分等を甘受しなければならない地位に立たされるのであるから、そのような効果が生ずる組合設立の前提たる絶対要件ともいうべき法一八条所定の同意書の提出は、公民権の行使にも匹敵すべきものであつて、その要件は厳格に解さなければならず、被告組合主張のような考え方は許されないものである。したがつて、未成年者や死者を名義人とする同意書は、それ自体法一八条による同意の効力を有しないものと解さなければならない。
(五) 定款及び事業計画について
被告組合は、その定款及び事業計画について各町内会ごとに説明会を開くなどして周知徹底を図つたと主張する(被告らの主張二(五))が、第一次新組合の設立に際してはともかく、被告組合の設立についてはそのようなことは行なわれなかつたのであり、右主張は失当である。
のみならず、法一八条による宅地所有権者等を得るに際しては、現実に被告組合の定款及び事業計画を示してこれに対する同意を求めなければならないと解すべきであり、他の機会に右の定款等を知りうる機会があれば、現実にこれらを示してその同意を得なくても同意の効力に影響ないというような解釈は許されるべきでない。しかるところ被告組合の設立に際しては、宅地所有権者等に対し、その定款及び事業計画が交付あるいは郵送されたことは認められないから、被告組合についての同意書は、法一八条所定の同意としてはその要件を欠くものであることが明らかである。
なお、被告組合は、設立が失敗に帰した第一次新組合についての同意書を被告組合に対するものとして流用する必要があり、また従前の施行地区(旧無効組合も同じ施行地区である。)を約半分に縮少した定款及び事業計画の変更が地区内の住民らに知られ、反対運動により被告組合の設立が妨害されることを恐れ、その定款及び事業計画を地区内の住民らに伏せたまま設立運動を行なつていたと考えられる。その結果、被告組合は、区画整理組合に関心があり第一次新組合の設立の際に積極的な反対運動をした者たちさえまつたく知らないうちに設立されるに至つたのである。
(六) 事情判決について
被告組合は、被告組合の設立について法一八条所定の同意の要件について欠けるところがあつても、行政事件訴訟法三一条一項の法意に基づき、原告の請求は棄却されるべきであると主張する(被告らの主張二(六))。
しかし、右条項は取消訴訟にのみ適用があるのであつて、本件における原告の請求に適用される余地はない。取消訴訟は行政処分の違法あるいは瑕疵が小さい場合であるから、右のような規定の存在理由もあるが、本件のような重大な違法あるいは瑕疵を理由とする無効確認訴訟に右規定をみだりに拡張して適用すべきではないのである。
また被告組合が引用する最高裁判決は、違憲無効である議員定数に基づく選挙の効力に関する特別の事例であつて、みだりにその適用範囲を広げるべきではない。本件のように違法に設立された被告組合は、どのような段階においても公権力を行使することは許されるべきではないのである。
なお、被告組合は、その事業が相当程度進行あるいは完了し、この段階で設立が無効とされるならば、原状回復は事実上不可能であり、収拾できない混乱状態になると主張する。しかし、被告組合が行なつたとする事業は、実際は旧無効組合によつてそのほとんどが完了していたものであるが、それはともかく、これまでに行なわれた事業を収拾することは、法的にも事実的にも十分可能であつて、被告組合の右主張はなんら原告の請求を排斥する理由とはならない。むしろ、違法に設立された被告組合を存続させ、被告組合がこれまで行なつてきた不適切極まる事業を継続させることの方が、施行地区内の住民にとつては、一層不利益な事態であるといわなければならないのである。
第七原告らの反論に対する被告らの再反論
一 被告知事の再反論
原告ら主張の建設省計画局区画整理課長からの回答は、第一次新組合の設立についての法一八条による同意と、被告組合の設立についての右の同意とは全く別個のものであるから、被告組合の設立にさいしては、あらためて被告組合の定款及び事業計画に関する宅地所有者及び借地権者の同意を要する旨述べたにすぎないものである。したがつて、第一次新組合の設立についての同意書を、当該同意者の意思に基づき、必要な箇所の訂正等により被告組合の設立についての同意書として使用しても、法的にはなんらさしつかえなく、このような方法によつても新たな同意を得たことになるものといわなければならない。
原告らは、被告知事は被告組合の設立にさいして、法定数の同意を得させるべく、第一次新組合に対する同意書を無断流用することについては被告組合と共謀関係にあつた旨主張するが、原告らの主張するような事情はなく、同意書の無断流用を被告知事が認めたことはまつたくない。
被告知事としては、旧無効組合の設立認可処分が判決により無効とされた経緯もあるため、被告組合の設立手続には慎重を期すよう指導していたのであり、原告ら主張のような非難はあたらないのである。
二 被告組合の再反論
(一) 原告らは被告組合の設立に際して同意書の無断流用があつたとしてその根拠を主張する(原告らの反論二(一))が、右主張はいずれも理由がないものである。
すなわち、同意書の用紙は、十数回にわたり毎回数百枚ずつ印刷され、その都度町内会や設立準備委員に多数かつ重複して配布されていたものであるから、用紙の種類やその作成時期と同意書の日付とは必ずしも一致しないのが当然である。また、同意書は必ずしも、本人の自書捺印を有効要件とはしていないのであり、このような書類は、一般的に自ら住所氏名を自書捺印して作成する場合のほか、捺印のみをして書き入れは相手方に一任する場合、印鑑を相手方に渡し、書き入れ、捺印とも一任することも往々にしてあるのであつて、かかる場合であつてもこれを無効とすべきではない。したがつて、住所氏名の表示に脱漏あるいは誤記等があつたとしても、それによつて同意が無効になるということはない。さらに、日付の記入の筆蹟が同一もしくは類似しているものについても、右のように同意書の記入を他に一任する場合が多数あることが考えられ、同一の者が何枚も日付を書き入れる場合があつても、なんら不思議はないのである。
(二) なお、原告らの本件訴は、被告組合が設立された後一〇年近くも経過して提起されたものであつて、資料は散失し、関係人らのうち多数の者が死亡し、また生存者らの記憶も散漫になつているのであつて、確実な事実の把握はこの段階において非常に困難である。
かかる状況下においては、形式上完成されている同意書の表示自体を、特別且つ明白な無効理由がない限りはそのまま有効として判断し、これを処理すべきである。
第八証拠<省略>
理由
一 まず職権をもつて被告組合に対する本件訴の性質について検討する。
原告らは、被告知事のなした本件認可処分の無効確認(この訴が抗告訴訟としての無効確認の訴として提起されたものであることに問題はなく、右認可処分は抗告訴訟の対象となりうる処分と解すべきである。)とともに、被告組合の設立無効確認を求めている。
しかるところ、土地区画整理組合(以下「組合」ともいう。)の設立とは、法一四条ないし二〇条所定の私人による組合設立行為と都道府県知事による組合設立認可処分とが結合することによつて、組合が成立するに至るまでの一連の事実行為あるいは法律行為とその効果の全体というのであつて、これを全体として行政処分であるとすることはできず、したがつてその設立の無効確認を求める訴は、これを抗告訴訟と解することができないのみならず、字義どおり解して、原被告間の法律関係の確認を求める訴としても、事実行為を含む過去の行為等の無効確認をも求めるものとして不適法な訴といわざるをえない。しかし、本件において原告らが被告組合の設立無効確認を求めている趣旨は、要するに、被告組合が前記の要件にのつとり適法かつ有効に設立され現に存在しているとすればそこから生ずべき原告らと被告組合との間における現在の特定の法律関係について、これが存在しないこと、すなわち換言すれば、原告らが被告組合の組合員の地位を有さず、したがつて組合員としての一切の権利義務がなく、被告組合の区画整理事業の施行に伴う権利制限を受けない地位にあることを総体的に確認することにあると解され、そうであるならば、あえて組合の設立から生ずべき現在の個別的法律関係に還元するまでもなく、原被告間の右のような法律関係を端的に表現する意味において、本訴請求の趣旨を「被告組合の設立の無効確認」とすることは許されるべきであり、したがつてこのような訴は、いわゆる確認の訴として適法なものというべきである。そして、土地区画整理組合はいわゆる公法人であり、原告らが確認を求める前記の法律関係は、原告らと被告組合との公法上の法律関係であると解されるから、原告らの右の訴は行政事件訴訟法四条所定の当事者訴訟であつて、したがつてその訴の性質あるいはこれに関する判決の効力も、同法の規定するところによるものと解すべきである。
二(一) 原告らの請求原因一ないし三の事実については当事者間に争いがない。
(二) そこでまず被告組合の設立に至る経緯について検討するに、前記当事者間に争いのない請求原因二及び三の事実に加え、成立に争いのない甲第六号証及び第五二号証の一、二、証人山田常次郎、同五月女正治、同島田作次郎(第一、二回)、同長岡慶信、同江川二郎(第一回)の各証言、原告光明院及び被告組合(第一、二回)の各代表者尋問の結果並びに弁論の全趣旨を総合すると、次の事実が認められ、この認定に反する証拠はない。
(1) 被告組合が行なう区画整理事業の施行地区は、東京都北区田端町、中里町、西ヶ原町などの各一部にわたる約一二五、〇〇〇坪の地域であるが、右施行地区全域を含む田端地区周辺の約二五〇、〇〇〇坪の地域については、被告組合が設立されるより前である昭和二三年三月一三日、旧特別都市計画法(昭和二一年法律第一九号)に基づき戦災復興を目的として被告知事の設立認可によつて設立された田端復興土地区画整理組合(旧無効組合)があつて、地域内の区画整理事業をすすめていた。ところが、旧無効組合(組合長長岡慶信)は、その組合役員らに経理上の不正行為などもあつて、昭和二四年から二五年にかけて同組合の事業運営に反対する組合員田辺良隆によつて組合設立及び被告知事の設立認可処分の各無効確認の訴が東京地方裁判所に提起され(同裁判所昭和二四年(ワ)第四九七七号、昭和二五年(ワ)第五七六号)、さらに多数の組合員らが右訴訟の原告に補助参加する事態となつた。そして、右訴訟においては、旧無効組合の設立認可申請にあたつて必要な施行地区内の土地所有者の同意が法定数に達せず、また得られた同意が組合に関する設計書及び規約についての同意とは認められないとする原告の主張が全面的に認められ、昭和三〇年六月三〇日、同組合の設立及び被告知事の設立認可処分の無効確認の判決がなされ、さらにその控訴審(東京高等裁判所(ネ)一、四一二号)においてもその判断が維持されて、昭和三三年一月三一日、同裁判所において控訴棄却の判決がなされ、これが確定するに至つた。
(2) 他方、旧無効組合は、そのころまでにすでに相当程度(地区によつては七、八割程度)の事業を完了していたので、同組合の役員らは、一審判決で組合側が敗訴したころから、東京都建設局区画整理部の指導を受けながらその収拾方法について検討し、その結果、旧無効組合の施行地区をまつたくそのまま施行地区とする別の新たな区画整理組合を設立して従前の事業をひきつぐことによつて事態の解決を図ることとなつた。この方針に基づき、前記訴訟が控訴審に係属中である昭和三一年ころから、長岡慶信や塚本福治郎ら旧無効組合の役員が中心となり、施行地区内の町内会の役員らを設立準備委員として、北区田端復興土地区画整理組合(第一次新組合)の設立運動が始まり、昭和三一年一一月二九日には法一九条二項に基づく第一次新組合の施行地区の公告もなされ、組合の設立認可申請に必要な宅地所有者等の同意(法一八条)のとりまとめが行なわれた。
(3) しかし、旧無効組合の役員らに対する一部組合員らの不信はその後も解消されず、第一次新組合の施行地区の公告がなされ一年以上を経過するも、その設立認可申請に必要な法一八条所定の宅地所有者の同意は、法定数に達せず、第一次新組合の設立は、そのままでは不可能であると目されるようになつた。そこで新組合設立発起人らは、都の指導を受け、昭和三二年末ころから、旧無効組合の施行地区全域を対象とする新組合の設立をあきらめ、第一次新組合の設立運動に際して宅地所有者から法一八条所定の同意が比較的多く得られた地区を限つて新組合の設立を期すことを決定し、第一次新組合の設立運動を、旧無効組合の施行地区の約半分にあたる地域を施行地区とする被告組合(名称は第一次新組合と同じ。)の設立運動に切替えることになり、昭和三三年四月二二日には第一次新組合の施行地区の公告についても取消公告がなされた。
(4) 被告組合の設立運動は、従前の旧無効組合役員らに加え、被告組合設立後初代の理事長となつた島田作次郎が中心となり、また町内会役員らを設立準備委員会として行なわれ、昭和三三年四月二二日には法一九条二項に基づく施行地区の公告もなされ、そのころまでに第一次新組合のときのものとは内容が当然異なる被告組合の定款及び事業計画も作成された。そして、被告組合の設立発起人らは、その後法一八条所定の宅地所有者等の同意が法定数に達した(なお、この同意には、第一次新組合のために提出された同意書が相当数流用されていることは、後記認定のとおりである。)として、同年六月三〇日、被告知事に対して被告組合の設立認可を申請し、これを受けて被告知事は、同年一〇月一八日付で本件認可処分を行なつた。
三 原告らは、被告組合がその設立認可申請に際して得たとする法一八条に基づく宅地所有者の同意は、法定数を欠き、また法一八条所定の被告組合の定款及び事業計画についての同意ではなかつたとして、これを前提とする被告知事の本件認可処分が無効であると主張する。
ところで、土地区画整理組合の設立は、私人による法一四条ないし一九条の組合設立行為と、これに対する都道府県知事による法二一条一項の認可処分が結合することによつて成立するのであり、知事の行なう認可処分は、組合設立の効力発生要件と解される。したがつて、右認可処分は、私人による組合設立行為が前記の法定要件を満たし、組合が有効に成立することを前提として、知事がこれに対し同意を与えることによつて組合設立行為の効力を完成させる補充的意思表示であると解されるのである。
そしてそうとすれば、一般に、行政庁の権限の行使について私人たる相手方の申請、同意等を必要とする場合において、その前提要件たる申請等は行政処分の有効要件であつて、これらをまつたく欠く場合やこれらの申請等が無効である場合になされた行政処分は当然無効と解されているのと同様に、本件のような場合において、私人による組合設立行為がその重要な法定要件を具備する有効なものであることは、知事による設立認可処分についての有効要件であると解すべきであり、したがつて、組合設立行為が重大な法規違反等により無効である場合には、これに基づく認可処分は、法二一条一項一号、二号に該当する場合として違法であるにとどまらず、その法律上の根拠を欠くこととなり、それ自体重大な瑕疵あるものとして当然に無効とならざるをえないというべきである。
そして、本件において原告らが主張する被告組合設立行為について宅地所有者の同意が法定数に達しないこと、また、定款及び事業計画についての宅地所有者の同意でないことは、いずれも組合設立行為についての最も根本的かつ重要な法規の違反であり、また組合設立認可申請に関する重要な実体的要件を欠く重大な瑕疵であることが明らかであるから、したがつて右のような事実はいずれも本件認可処分を無効ならしめる事由になるものといわなければならない。
なお、被告知事は、組合設立認可申請に対する被告知事の審査は、申請書類の形式的審査にとどまるものであるから、右審査が十分尽くされた以上、仮に原告主張のような事実があつても本件認可処分が無効になるものではないと主張するが、この主張が失当であることは前記の理由から明らかというべきである。
四 そこですすんで原告らの前記主張事実の当否について判断するに、まず被告組合の設立認可申請にあたつて法一八条所定の宅地所有者の法定数の同意があつたか否かについて検討する。
土地区画整理組合の設立認可申請にあたつては、その定款及び事業計画について、施行地区となる地域の宅地所有者の三分の二以上の同意を得なければならないことは法一八条の規定上明らかであるところ、被告組合の設立認可申請時(昭和三三年六月三〇日)におけるその施行地区の宅地所有者総数が六一九名であつたこと、被告組合はそのうち別紙(一)ないし(四)の1ないし77の者を含む四四八名の同意を得たとして被告知事に対して設立認可申請を行ない、本件認可処分を受けたことは、いずれも当事者間に争いがない。
原告は、右の同意をしたとされる者のうち、別紙(一)ないし(四)の1ないし77の宅地所有者(なお、以下これらの者の表示については1ないし77の記載のみで示すこともある。)の同意は、被告組合についての法一八条所定の同意として無効であると主張するので、右の七七名の同意の効力について以下順次判断することとする。
なお、被告知事に対する本件訴は、抗告訴訟としての無効確認の訴であるから、本件認可処分が無効であることを基礎づける具体的事実についての立証責任は原則として原告らが負担するものというべきであり、したがつて本件に即してこれをいえば、被告組合の設立認可申請に際しての宅地所有者の同意が法定数に達しないこと、したがつてまた同意をしたとされる1ないし77の者の同意が無効(同意がその法定の効力を生じないことをいう。以下同じ。)であることを根拠づける事実は、原告らに立証責任があるということになる。そしてまた右の結論は、被告組合に対する訴(これが当事者訴訟であることは前示一のとおりである。)の関係においても同様であり、原告らは、いずれにしても右の事実についての立証責任を負つているものといわなければならない。
(一) 総説
1ないし77の者の同意の効力について個々に判断する前に、まず全般的な問題についての検討を加えることとする。
(1) 同意の法的性質について
組合設立認可申請にあたつて必要とされる法一八条所定の宅地所有者の同意は、組合の定款及び事業計画に対する同意であることは規定上明らかであるが、これをなお実質的にみれば、組合の定款及び事業計画を承認したうえで、その方針のもとに組合が設立され、さらには組合によつて区画整理事業が行なわれることに対する同意としての意味を有するものと解される。なぜなら、法が組合の設立にあたつてその定款及び事業計画について宅地所有者総数の三分の二以上の同意を必要としたゆえんは、組合が一旦設立されたならば、施行地区内の宅地所有者は、すべて当然に組合員とされ(法二五条一項)、組合の行なう区画整理事業の対象とされるのであるから、組合の設立及びその後の区画整理事業の施行という強大な公権力の行使について、その一つの窮極の根拠を組合設立後は当然に組合員とされ事業の施行を受ける宅地所有者の総意に求めたことにあると解され、そうであるならば右の同意は、実質的には結局のところ、当該定款及び事業計画に基づく組合が設立され、これが区画整理事業を行なうことについての同意としての意味があるというべきだからである。
そして、区画整理事業においては、土地の区画形質の変更及び公共施設の新設または変更(法二条一項)が行なわれ、宅地所有者はその所有宅地についてほぼ必然的に減歩あるいは清算金の徴収等を伴う換地処分による交換分合を甘受しなければならないから、組合設立にあたつての宅地所有者の前記の同意は、さらに具体的には自己の所有宅地についてそのような交換分合が将来行われることを当然に予定したうえでの定款及び事業計画についての同意であるということができるのである。
そうとすれば、右の同意は、法の規定上もとより意思表示を要素とする公法上の法律行為であり、これを私法上のものと解する余地はないのであるけれども、前記のようにこれについて実質的には所有宅地の交換分合を当然に予定してなされるものであるという面を否定できない以上、その同意の効力は、当該宅地について私法上の法律関係を有する者(たとえば共有者)との関係においては、実質的に当該宅地の私法上の単なる使用あるいは管理行為の範囲を超え、その変更ないしは処分行為に匹敵あるいは準ずる性質を有するものになるから、その限度において、宅地所有者が法一八条所定の同意をすること、あるいはその同意の効力については、一定の私法上の制約が課せられる場合があるものといわなければならない(すなわち、宅地所有者の法一八条所定の同意は、当該宅地に関する限りにおいて、これに変更を加える行為ないしは処分行為を当然に予定してなされるものであるから、右の同意それ自体が当該宅地の処分行為等に準ずるものとしての私法上の性質を有する側面を否定できないものである。)。
(2) 同意の効力の基準時について
法一八条の同意は、組合の設立認可申請時に所定の要件を満たしていることを要し、かつそれで足りるというべきである。したがつて、認可申請後は、同意の撤回は認められないし、権利関係の変動があつても認可申請手続の効力に影響はない。このことは法一八条の文理からも、また手続の安定という要請からもそのように解するのが相当だからである。そしてそうであるならば、反対に認可申請あるいは組合の設立認可処分の後に、無効な同意を追認したり、法定数に不足する場合に新たな同意を追完することは許されないし、また、組合設立後、その事業に賛成しているか否かということは同意の効力に影響しない。なぜなら、追認等を認めることは、前記のとおり認可申請後は同意の撤回が許されないこととの均衡を失するし、また同意の効力の審査の基準時が統一されないことになり、ひいては法一八条の要件の充足に疑義を生ずることにもなり、さらには認可申請後に権利関係に変動があつた場合には特に種々の困難な問題を生ずることにもなつて、手続の安定を著しく害するからである。
被告組合は、1ないし77の者のうち、被告組合の設立後の創立総会あるいは第二回総会に出席することにより設立を支援した者は、法一八条の有効な同意をしたものであると主張する。
しかし、右主張が、創立総会等に出席することが元来無効な同意の追認あるいは追完であるとするものであるならば、それが失当であることは前記のとおりである。また、右の事実が、組合の設立認可申請に際して、有効な同意をしたことの一つの間接事実であるという主張であるとしても、前記(1)のとおり組合が一旦設立されたならば施行地区内の宅地所有者は同意の有無にかかわらず全員が組合員とされるのであるから、総会出席という事実が、設立に際して同意をしたか否かということについての間接事実としてさほどの意味を有するものとは到底考えられない。したがつて、1ないし77の者のした同意の効力について以下検討を加えるに際して、被告組合主張の右事実は、証拠に照らして間接事実の一つとして考慮することとするが、判断にあたつて個別的にその証拠価値について記載することは原則としてしない(もつとも、証人長岡慶信の証言により真正に成立したと認める丙第二号証の一、いずれも弁論の全趣旨により真正に成立したと認める丙第二号証の二の一ないし三〇、同号証の四、同号証の五の一ないし一八によれば、1ないし77の者のうち被告組合の創立総会及び第二回総会に出席したとされる者は、ほとんど大部分が委任状を提出したいわゆる書面出席であることが認められるところ、その提出した委任状であると解される丙第二号証の三の一ないし三二あるいは同号証の六の一ないし一六の各書証については、相当部分についての成立の真正に関する立証がなされていないのみならず、本件訴訟における関係証言あるいは右の委任状に記載されている文字の筆蹟等に照らし、かえつて成立の真正が疑わしいと認められるものも少なからず存在し、いずれにしても、被告組合主張の事実についての証拠としては、証拠価値が之しいといわなければならない。)。
(3) 同意書の本訴における証拠上の取扱いについて
原告らは、1ないし77の者が被告組合の設立に際し法一八条所定の同意を証するものとして提出したとされる書面(以下これらを含め右の同意をあらわす書面を「同意書」という。)を書証(甲号証)として提出し、これに対し被告らは、これらの文書の成立に関し、死者名義で作成されている同意書の一部につき「不知」とするほかは、いずれもその成立を認めるものである。
しかし、原告ら及び被告らの立証趣旨との関連からいえば、右の各同意書の作成者についての主張は、原告らと被告らでは必ずしも一致せず、また記載されてある名義人とは限らない(たとえば、未成年者名義の同意書についていえば、原告らは少なくとも第一義的には未成年者自身が作成者であると主張する趣旨であろうし、反対に被告らは当該未成年者の法定代理人が作成者であるかまたはその作成に関与していると主張する趣旨であろう。また日付を訂正したうえで第一次新組合についてのものを無断流用されたと原告らが主張する同意書にあつては、原告らは、訂正された日付部分の作成者は名義人以外の者(その限度において偽造文書である。)であると主張する趣旨であるのに対し、被告らは、すべての部分が名義人の意思に基づき作成されたと主張する趣旨であろう。)など、一律にこれを決することができないので、当裁判所としても文書の成立に関する当事者の認否に拘束されるべきでない場合もあるのみならず、本訴において重要なのは、結局右の各同意書がいかなる経緯により作成され、被告組合に対する同意書とされるに至つたかという点にあり、その場合、その同意書は、文書の記載内容よりもむしろ当該文書の存在あるいはその筆蹟等の記載の外形に証拠としての意味があると解される。したがつて、本件においては、当該同意書をむしろ検証物として取扱い、その作成の経緯等の認定資料として用いることが適当であり、またそのように取扱つたとしても当事者の立証の意図及び効果になんら影響を及ぼすものでないことは明らかである(本訴において同意書を書証とするか検証物とするかによつてその効力の判断につき結論が異なることはありえない。)から、本件においては、以下の記載においては原則として原告ら提出の同意書を検証物として取扱い、これに基づき当該同意の効力を直接に論ずることとし、その場合には、文書の成立についての判断をしないまま甲号証の番号を事実認定の証拠として引用することとする(もとより、各同意書の作成経緯等を認定することによつて、おのずから当該同意書の作成者あるいは書証としての成立の真正の点についても明らかになる(なお、特にことわらない限りは名義人自身が作成者であるとの推定がはたらくものとして処理する。)のであるが、その場合に、あらためて同意書の成立についての判断を示して、これを書証として取扱つたうえで同意の効力について論ずることはしない。)。
(二) 法一九条二項の公告前の同意
1 高木義正
高木義正名義の同意書が被告組合についての法一九条二項に基づく施行地区の公告(昭和三三年四月二二日)より前の日付になつていることは当事者間に争いがなく、甲第一号証の一の同意書によれば、同人の同意書の作成日付は昭和三二年六月三〇日と記載されていることが認められる。ところで右の同意書に施行地区の公告前の日付が記載されているのは、後記(七)(1)認定の事実及び弁論の全趣旨によれば、第一次新組合についての同意書が日付を訂正することなくそのまま被告組合についてのものとして流用されたことによるものと解されるから、同人の同意の効力は、結局同人が第一次新組合のときの同意書の流用を了承して被告組合について法一八条の同意をしたか否かにかかるものというべきである。そして、右の意味における同意書の流用を同人が了承しているならば、同意書の日付が前記の公告前となつていたとしても、それは日付訂正を脱漏したという記載上の軽微な形式的瑕疵にすぎず、これをもつて同意が無効であるとすることはできない。
そこでこの点を判断するに、証人山田常次郎の証言と弁論の全趣旨により真正に成立したと認める丙第九号証の一、二と弁論の全趣旨によれば、高木義正は被告組合設立に際し、その定款及び事業計画に同意して第一次新組合の際の同意書を提出した(流用を許した)ことが認められるから、同人の同意は被告組合についてのものとして有効といわなければならない。
もつとも証人山田常次郎の証言によれば、前記丙第九号証の一、二は、いずれも原告らの本訴提起の後に作成されたものであると認められ、また同号証の一はその記載内容の趣旨が必ずしも明確でないこともあつて、前記事実認定にあたつての証拠として、その価値にいささか疑問がなくはないが、他に適切な証拠の存しない本件においては、これを証拠として前記事実を認定することもけだしやむをえないというべきである。なお、本訴提起後作成された前記丙第九号証の二は、適式な日付による同人の同意書であるが、同号証の一の記載内容の趣旨を補足する意味の証拠として用いたのであつて、当裁判所がこれによる同意の追完あるいは追認の効力を認めたものではないことはいうまでもない。
(三) 未成年者の同意
(1) 未成年者が私法上有効な財産上の法律行為をするには、原則として、法定代理人の同意を必要とし、あるいは法定代理人が未成年者に代理して行なうことを要する(民法四条、八二四条、八五七条)。
ところで、法一八条所定の同意は、意思表示を要素とする公法上の法律行為であるから、前記の私法上の諸原則がこれにも類推適用されるべきであるか否かは一つの問題であるが、しかし、前示(一)(1)のとおり、右の同意が、自己の所有宅地についての財産上の処分行為に準ずる私法上の性質を有する側面を否定できないのであるから、したがつて、未成年者は、自己の所有宅地に関して法一八条の同意をすることについて、単独では有効にこれをなしえないものと解すべきである(もつとも、民法のように取消しうべき法律行為を認めることは、極めて多数の者が関与する組合の設立行為について手続の安定を著しく害し、その影響するところが重大であるから許されないというべきであり、法定代理人の同意を欠く場合は一律に無効と解すべきである。)。したがつて、認可申請時において未成年者の所有する宅地について、法一八条の同意をするについては、法定代理人の代理行為によるか、あるいはその同意を得て未成年者が自ら行なうかのいずれかの方法によらなければならないのであつて、また、その同意を証する書面たる同意書には、そのいずれの方法によつたものであるかが明らかになつていることを要するものといわなければならない。
もつとも、以上のように解するとしても、未成年者の所有宅地に関し、法一八条所定の同意が実際には前記のいずれかの方法により法定代理人が関与してなされたのであるならば、仮に同意書の記載自体は未成年者の名義のみで作成されたとしても、その瑕疵は、設立手続を違法ならしめるものとはいえ、組合設立における形式的な手続上の瑕疵にすぎないというべきであつて、これを理由に同意の効力を無効であるとし、組合設立行為ひいては都道府県知事の認可処分を無効ならしめるようなものではないと解さなければならない。しかし他方、同意書に未成年者名義の記載しかなく、それ自体から未成年者による同意が、前記の方法によつて有効になされたことが明らかでない場合には、そのことだけで当該同意書は未成年者のみによつて作成されたと一応推認できるから、このような場合は、同意が有効になされたことを主張する被告らにおいて法定代理人の同意あるいは代理行為に基づくものである事実を反証として立証しなければならず、この点に関し特段の反証がなされない限り、当該同意は無効であるとしなければならない。
以上の観点に立つて、以下未成年者名義であるとする各同意の効力について検討を加えることとする。
(2) 2 小林敏彦
小林敏彦の同意書が作成された当時、同人が未成年者であつたことは当事者間に争いがない(成立に争いのない甲第二号証の一によれば、同人は昭和二一年二月五日生であることが認められ、また、甲第一号証の二の同人の同意書によればその作成日付は昭和三三年五月九日となつていることが認められるから、右作成当時あるいは認可申請時の同人の年令は一二歳であつたことになる。)。しかるに、右の同意書(甲第一号証の二)は作成名義人として同人の記載しかなく、また他にその同意について法定代理人が関与したことを窺わせる証拠はまつたく存しないから、以上の事実によれば前記説示に照らし右の同意は法一八条所定の同意として無効であるといわなければならない。
(3) 3 山田雪枝
山田雪枝が同意書作成当時未成年であつたことは当事者間に争いがない(成立に争いのない甲第二号証の二によれば、同人は昭和二一年二月二日生であること、また甲第一号証の三の同人の同意書によればその作成日付は昭和三三年五月一五日(ただしやや不明確であるが昭和三二年一二月一五日の記載を訂正したもの)となつていることが認められるから、同人は文書作成及び認可申請当時年令一二歳であつたことになる。)。
しかし、弁論の全趣旨により真正に成立したと認める丙第九号証の三によれば、右の同意書(甲第一号証の三)を当時作成したのは同人の親権者である山田徳次郎及び春枝であつたことが認められ、したがつて山田雪枝の同意はその法定代理人によつてなされたことが推認されるから、同人が当時未成年であつたという前認定の事実のみによつては、この同意が無効であるとまでいうことがいまだできないことは前記説示から明らかであり、弁論の全趣旨により真正に成立したと認める甲第五号証の五(ただし山田雪枝作成部分)によつてもなお以上の結論を左右するに足りない。
(4) 4 半谷隆樹
半谷隆樹がその同意書の作成当時未成年であつたことは当事者間に争いがない(成立に争いのない甲第二号証の三によれば同人は昭和一三年一二月三日生であること、また甲第一号証の四の同人の同意書によれば、その作成日付は昭和三三年五月一〇日であることが認められるから、同人は文書作成及び認可申請当時年令一九歳であつたことになる。)。しかるに右の同意書(甲第一号証の四)には、作成名義人として同人の記載しかなく、また他にその同意につき法定代理人が関与したことを窺わせる証拠はまつたく存しない。したがつて、以上によれば、同人の同意は前記説示に照らし無効であるといわなければならない。
(5) 76 亡多家隆相続人 多家綾子
多家雅子
成立に争いのない甲第三二号証の二によれば、多家隆は昭和三一年一二月一四日死亡し、同人の相続人は妻の綾子と養女の雅子の二名のみであり、雅子は昭和一七年三月一八日生であることが認められ、甲第三二号証の一の同人らの同意書によれば、その作成日付の記載は昭和三三年五月五日であることが認められるから、文書作成及び認可申請当時雅子は年令一七歳の未成年者であつたことになる。
しかし右甲第三二号証の一の同意書には、その作成名義人として雅子のほかに隆死亡後の唯一の親権者である綾子の署名押印がなされていることが認められるから、結局、綾子は共同相続人の一人として独自に法一八条の同意をするとともに、他の共同相続人たる雅子の親権者として、雅子が法一八条の同意をなすについて同意を与えた(あるいは雅子に代理して法一八条の同意をした。)と推認されるから、前記説示に照らしこの同意を未成年者によるものを含むとして無効なものとすることはできない。そして、右の同意書による同意は、結局のところ相続財産についての共同相続人全員による有効な同意と解されるのである。
(6) 77 天宮トヨ
天宮弘彦
天宮源吉
天宮朝三
成立に争いのない甲第三三号証の二によれば、天宮幸太郎(被相続人)は昭和三一年一二月八日死亡し、同人の相続人は妻のトヨ、長男弘彦(昭和一九年一月二七日生)、二男源吉(昭和二二年七月二九日生)、三男朝三(昭和二七年一一月一〇日生)の四名であることが認められ、甲第三三号証の一の同人らの同意書によればその作成日付は昭和三三年五月三日であることが認められるから、文書作成及び認可申請当時の三名の子供らは、年令それぞれ一四歳、一〇歳、五歳の未成年者であつたことが認められる。
しかし他方、右の甲第三三号証の一の同意書には、その作成名義人として子供ら三名のほかにその親権者たるトヨ(同意書に記載されてある「天宮とよ」が戸籍上正確には「天宮トヨ」であることは弁論の全趣旨により明らかである。)の署名押印がなされていることが認められるから、前記(5)で述べたのとまつたく同じ理由により、この同意書による同意は、未成年者による無効なものを含むということはできず、共同相続人全員による有効な同意と解すべきである。
(四) 死者の同意
(1) 法一八条所定の宅地所有者の同意は、もとより現実の権利者の同意であることを要するから、権利能力のない死亡している者の名義による同意は、何者かに名義を冒用されたものであつて、同意としてのなんらの意味を有せず、これが無効であることは当然である。
しかし、同意書の作成名義が死者となつている場合であつても、それが死者が生前所有していた宅地について、実際には当時の権利者であるその相続人が、死者名義を用いて同意書を提出した(その理由は登記名義等が死者のままとなつているときに手続の煩を避けるためであろう。)のであるならば、認可申請時における権利者たる相続人の同意としての要件を実質的には備えているというべきであり、死者名義という同意書記載上の瑕疵は、設立行為における手続上の形式的な違法にとどまるのであつて、同意の効力ひいては設立認可処分を無効ならしめるまでの事由とはならないものというべきである。なお、当該相続財産たる宅地がいまだ分割前のものであるならば、右宅地は共同相続人の共有(これをいわゆる合有と解しても以下の結論は異ならない。)に属するから、この場合には、共同相続人全員による同意であることが、当該同意が前記の要件を満たして有効とされるために必要であると解するのが相当である(なお、宅地の所有形態が共有である場合には、法一八条の同意は共有者全員によるものでなければならないと解されることは、後記(五)のとおりである。)。
もつとも、同意が死者名義でなされているという事実のみからは、当該同意がその相続人によつてなされたということを経験則上当然には推認できないから、同意の無効を主張する原告らとしては、当該同意書がその作成時期において死者名義であることを立証すれば、その同意は何者か(それが真実の権利者であるという推定ははたらかない。)によつて死者名義が冒用されたことが一応推認でき、立証として一応足りるというべきであり、したがつてこの場合には、被告らにおいて当該同意が前記の要件を満たし相続人によつてなされたことについての格別の反証がなされない限り、当該同意は無効であると解さなければならない。
以上の観点に立つて、以下死者名義とされる同意の効力について検討を加える。
(2) 5 福田三次郎
福田三次郎名義の同意書が作成された当時(甲第一号証の五の同意書によれば三三年五月二八日と記載されていることが認められる。)同人がすでに死亡していたことは当事者間に争いがなく、右の同意書は死者名義で作成されていることが明らかである。
しかし他方、成立に争いのない甲第三号証の一、弁論の全趣旨により真正に成立したと認める丙第九号証の四によれば、右の同意書は昭和二〇年三月一〇日推定死亡した福田三次郎の家督相続人である福田幸一が作成提出したものであることが窺われるから、前記(1)の説示に照らし右の同意書による同意は、死者名義であることを理由に無効であるとすることはできない。
(3) 6 合名会社北島社団代表者 北島庄六
合名会社北島社団代表者北島庄六名義の同意書(甲第一号証の六)が作成された当時、同人がすでに死亡していたことは当事者間に争いがなく、右の同意書は死者の作成名義のものということになる。
しかし、成立に争いのない甲第三号証の二、弁論の全趣旨により真正に成立したと認める丙第九号証の五によれば、右の同意書は、昭和一三年九月二〇日死亡した北島庄六の遺産相続人である北島辰六(同人は合名会社北島社団の代表者の地位も承継したと推認できる。)が作成提出したことが窺われ(もつとも相続関係を直接に示す証拠はない。)、前記(1)の説示に照らし、結局右の同意書による同意を無効であるとまで解することはできない。
(4) 7 笹川辰巳
笹川辰巳名義の同意書(甲第一号証の七)が作成された当時、同人がすでに死亡していたことは当事者間に争いがなく、右の同意書は死者の作成名義のものということになる。
しかし、成立に争いのない甲第三号証の三、弁論の全趣旨により真正に成立したと認める丙第九号証の六によれば、右の同意書は、昭和二八年九月一一日死亡した笹川辰巳の五名の共同相続人によつて作成提出されたことが窺われる(もつとも相続関係を直接示す証拠はない。)から、前記(1)の説示に照らし、右の同意書による同意を無効とまで解することはできない。
(5) 8 浅香安右衛門
甲第一号証の八の同意書によれば、この同意書には「浅香金太郎相続人浅香定四郎」の名義と、「昭和三十三年五月二十八日」の作成日付の記載があることが認められ、また成立に争いのない甲第三号証の四によれば、浅香定四郎は昭和四年四月一一日に死亡した浅香金太郎を家督相続していることが認められる。
しかし、右の同意書(甲第一号証の八)の作成名義人の記載には、金太郎名下には押印があるのに、その左傍に記載された「相続人浅香定四郎」の名下には押印がなく、また両者の位置関係もかなり不自然であるなどの点が認められ、以上によれば浅香定四郎の記載は、浅香金太郎名義の同意書が作成された後になつて添書されたと推認され、そうであるならばさらに、右の添書がなされた時期は必ずしも明らかでないとしても右の同意書は結局死者名義により作成提出されたのではないかという疑いが強いことになる。しかしその点はさておき、以上の認定に加え、前掲甲第三号証の四によれば、浅香金太郎は大正六年二月二二日に安衛門と改名していることが認められ、それにもかかわらず、なお右の同意書が金太郎名義となつていること、また同意書の署名等の筆蹟が後記認定の多数の共通筆蹟の一つであること、さらには、右の同意書が前記のような不自然な形で作成されたこと、とりわけ定四郎名下に押印がなされていないことについての合理的な理由を示す証拠がなんら存しないことをあわせ考えると、右の同意書が家督相続人である浅香定四郎によつて作成提出されたものとは認められないといわなければならない。そうとすれば、いずれにしても右の同意書による同意は、法一八条の同意としての効力を有しない無効なものというべきである。
なお、原告らが同意の無効を主張する8の者の同意書が、甲第一号証の八の同意書を指すものであることは、前記認定事実及び弁論の全趣旨から明らかである。
(6) 56 新井万吉
57 守屋よしみ
67 林栄治郎
68 坂豊次
新井万吉、守屋よしみ、林栄治郎、坂豊次の名義の各同意書(甲第一二号証の一、第一三号証の一、第二三号証の一、第二四号証の一)がそれぞれ作成された当時、各名義人らがいずれもすでに死亡していたことは当事者間に争いがなく、したがつて右の各同意書は、いずれも死者による作成名義のものということになる。
そうとすれば、右の各同意書が作成された経緯について、いずれも他になんらの証拠を見出せない本件においては、前記(1)の説示に照らし、これらの同意書に基づく同意は、いずれも無効であるといわなければならない。
(7) 58 佐藤ハルジ
甲第一四号証の一の同意書によれば、佐藤ハルジ名義の同意書の作成日付は昭和三三年五月一三日であることが認められ、また、成立に争いのない同号証の二によれば、同人は昭和三二年四月五日に死亡していることが認められるから、右の同意書は、死者の作成名義のものということになる。
したがつて、右の同意書の作成経緯についての証拠がなんら存しない本件においては、前記(6)と同様にこれに基づく同意は無効といわざるをえない。
なお、被告組合は、右の同意書は佐藤ハルジの同居の継子である真貝泰子がその相続人と誤信して作成したと主張する(もつともこれに沿う証拠はまつたく存しない。)のであるが、その趣旨がいかなるものか不明であるばかりでなく、その主張にあるように相続人を誤信して作成された同意書であるならば、これを法一八条所定の有効な同意と解する余地はなく、前記結論になんら影響しないから、主張自体失当というべきである。
(8) 69 向井重男
向井重男名義の同意書(甲第二五号証の一)が作成された当時、同人がすでに死亡していたことは当事者間に争いがない。したがつて、右の同意書は死者の作成名義のものということになる。
そして証人中村盛の証言によれば、被告組合の設立準備委員として宅地所有者の同意書のとりまとめを担当していた中村盛は、当時向井重男がすでに死亡していること(同人が死亡したのは、成立に争いのない甲第二五号証の二によれば昭和一六年四月一七日であることが認められる。)を知らないまま、同人の土地を管理(その権限の根拠及び内eを示す証拠は存しない。)していた中山岳一から右同意書の提出を受けたことが認められるが、それ以上に向井重男の相続関係あるいは同意書の作成経緯を明らかにする証拠は存しない。
そうとすれば、結局のところ右の同意書が、相続人らによつて作成提出されたことを窺わせる証拠がないことに帰着し、前記(1)での説示に照らし、この同意書による同意は、無効であると解せざるをえない。
(9) 75 金子武一
甲第三一号証の一の同意書によれば、金子武一名義の同意書の作成日付は昭和三三年五月四日であることが認められ、成立に争いのない同号証の二によれば、同人は昭和三〇年五月二日に死亡していることが認められるから、右の同意書は、死者の作成名義のものであることになる。
したがつて、前記(8)と同様に右の同意書が作成された経緯についてなんら証拠の存しない本件においては、これに基づく同意は無効であるというべきである。
(五) 共同相続人のうちの一人の同意を欠くもの
70 亡遠山信太郎相続人遠山津や
遠山泰治
遠山ひめ子
甲第二六号証の一の同意書によれば、この同意書は、遠山信太郎の相続人として右三名の署名押印がなされた共同作成名義のものであることが認められるところ、成立に争いのない甲第二六号証の二によれば、遠山信太郎の相続人には右の三名の他に三男の岩本栄光(大正四年一月二五日生)がいることが認められる。
ところで、一筆の宅地が数名の共有(共同相続人による分割前の相続財産の所有形態を含む。)に属する場合に、法一八条の所定の宅地所有者の同意は、共有者全員によりなされることを要し、その一部の者を欠く同意は無効であると解するのが相当である。すなわち、前記(一)(1)で説示したとおり、右の同意は、その一面において実質的には当該宅地についての処分行為に準ずる私法上の性質を有しているのであるから、その限りにおいて右のような私法上の制約を受けるものと解されるからである。
そうとすれば、70の同意書による同意は、前認定の事実に照らし、共同相続人のうち一名の同意を欠くものであつて、無効であるといわなければならない。
なお、法一三〇条二項、三項によれば、法一八条の同意等に関し、宅地の共有者は代表者一名を選任することを要し、その代表者に加えた制限は施行者に対抗できない旨規定されているが、代表者が現に選任されない場合に右規定の適用がないことは当然であり、右の同意書は、その記載からみて代表者を選任していない場合と認められるから、本件においては以上の結論になんら影響しない。
(六) 借地権者としての同意
71 家村亮次
甲第二七号証の同意書によれば、家村亮次名義の同意書は、借地権者としての同意を示す記載がされていることが認められ、また、弁論の全趣旨によれば、同人は宅地所有者であり、同人の右の同意書により宅地所有者として同意したものとして、被告組合の設立に際しての法一八条の同意者数に算入されていることが認められる。
しかし、右の同意書は、その記載に照らし、宅地所有者としての同意を示すものと解せられないことは当然であり、また同人が右の同意書により宅地所有者として同意する意図であつたと推測することもできないというべきであり、そうである以上これを宅地所有者の同意として取扱うことはできない(宅地所有者の同意としては無効である。)。
(七) 無断流用あるいは無断作成の同意書による同意
原告らは、以下に検討を加える五八名の宅地所有者については、第一次新組合の設立に際して提出された同意書が被告組合の設立についてのものとしてその者たちに無断で流用されたり、あるいはそもそも名義人が当該同意書の作成に関与していないものであるから、いずれにしても被告組合についての法一八条所定の同意をしたことにはならないと主張する。
もとより、法一八条の同意をしたとされる宅地所有者の同意書の名義人が、実際にはその作成に実質的及び法的に関与しておらず、同意書が当該名義人の意思に基づいて作成されたものでないのであるならば、これによる同意が当該名義人の法一八条所定の同意としての効力を有しないことは当然であり、また前記二(二)の認定事実(被告組合の設立に至る経緯)によれば、被告組合と第一次新組合は、その施行地区はもとより、定款及び事業計画も異なるまつたく別の法人格(もつとも第一次新組合は設立されるに至らなかつた。)を有すべき組合であり、現にその設立手続も法的にはまつたく別のものとして行なわれているのであるから、被告組合設立に際して必要な法一八条所定の宅地所有者の同意は、第一次新組合の設立に際して右の同意を得たことをもつて足りるということはできず、それとは異なる別の同意として新たに得なければならないというべきである(原本の存在並びに成立に争いのない甲第七号証の一、二の行政実例もその趣旨を示すものである。)。したがつて、原告らが主張するような前記の事実があれば、当該同意書による同意は、被告組合設立についての法一八条所定の同意としてはその効力を有しない無効なものといわなければならない。
もつとも、被告組合の設立についての右の同意が、第一次新組合の際に提出されてあつた同意書を利用してこれにあてられたとしても、その同意書が、第一次新組合とは異なる被告組合の設立について法一八条所定の同意をするという被告組合の設立認可申請時における宅地所有者の意思に基づき、あらためて提出されたものであるとするならば、被告組合に関して右の同意が法一八条の要件に欠けるということはできないから、当該同意は有効なものといわなければならない。したがつて本件のこの点に関する争点は、帰するところ、第一次新組合についての同意書が被告組合の設立に際して流用されたとしてその流用が作成名義人の前記の意思に基づく了解を得たものであるか否かということになる(なお以下においては、単に同意書の「流用」あるいは「無断流用」ということによつて、第一次新組合についての同意書が被告組合の設立に際して流用されたことを示すものとする。)。
(1) はじめに
そこで、原告ら主張の五八名の宅地所有者の同意の効力について個々に検討を加えることとするが、その前に同意書の流用(あるいは無断流用)に関する概括的な事実関係について検討する。
(I) 同意書の流用がなされたこと自体は、その数量はともかくとして、被告組合の自認するところであり、また被告組合の設立準備を行なつた証人ら(たとえば証人島田作次郎(第一回)、同魚見五作、同山下賀三、同谷久二、同関野良雄)の証言や被告組合代表者尋問(第一、二回)の結果によつても優にこの事実を認めることができる。
しかるところ、右の証人らは、いずれも同意書を流用するについては、第一次新組合の同意書を一旦返却してこれを示すなどして、当該名義人たる宅地所有者に対し被告組合についての同意とすることについての了解を得たものであり、無断流用ということはなかつたと供述するのであるが、これらの供述は、以下(II)~(V)の諸事実に照らしこれを全面的に措信することはできないというべきであり、むしろ相当数の同意書について無断流用がなされた可能性が強いと解するのが相当であるといわなければならない。
(II) すなわち、まず前記二(二)認定の事実に加え証人江川二郎の証言(第一回)、原告橋本国松本人尋問の結果と弁論の全趣旨によれば、同証人及び原告らは、旧無効組合の役員らの不正行為に不信を持ち、その活動に批判的であり、従前から土地区画整理組合について強い関心を持つていたこと、したがつて旧無効組合に代わる第一次新組合の設立運動が旧無効組合の役員らによつて行なわれることを知ると、これに対し積極的な反対運動をしたこと、しかるに被告組合は同じく旧無効組合の役員らが中心になつて設立運動が行なわれたにもかかわらず、その事実について同人らがまつたく気がつかないうちに設立されるに至ったことが認められる。そして、この認定事実によれば、被告組合の設立運動は、反対派の妨害を避けるため、できるだけ公然とならないように行なわれたのではないか、したがつて、そのために同意書の無断流用が相当程度なされ、その結果同人らは、同意書のとりまとめの事実を宅地所有者らを通じて知る機会がなかつたのではないかという推則が生ずることには、相当な根拠があるというべきである。
(III) 次に、証人山田常次郎、同魚見五作、同山下賀三の各証言を総合すると、第一次新組合についてとりまとめられた同意書は、その設立が失敗に帰した後もその提出者に返却されることなく、被告組合の設立運動をしていた者によつて保管されていたこと、これらの同意書が被告組合に対するものとして流用されるについては、被告組合の設立準備委員会の指示に基づき、旧無効組合のときから稼働していた事務職員らが、組合事務所において、被告組合の設立認可申請に対応するように同意書の日付の訂正あるいは記入をとりまとめて行なつたこと(このことが後記認定のように日付の記載が多数の同一筆蹟となつた原因の一つと解される。)、なお、日付の記入方法は、第一次新組合についての同意書には日付未記入(空白)のものが相当あつたので、それらのものについては日付欄に直接書き入れる方法により、また、すでに日付が記入されてあるものについては、その欄外に押捺されているいわゆる捨印を利用する方法によつて行なわれたこと、また、事務職員らがそのような処理をした同意書は相当数あることが認められ、この認定を覆すに足る証拠はない。
右認定事実によれば、前記(I)記載のように、同意書の流用については当該宅地所有者に同意書を示すなどしてその了解を求めたとする被告組合側の証人らの供述は、現実に了解を求めた場において日付の訂正等が行なわれていない点において極めて不自然であつて(なお、右のような行動をとつたとする証人魚見五作は、その供述においてこの点についての疑問に関しての合理的な理由を説明しえないでいる。)いささか措信しがたい傾きがあり、少なくとも事務職員らがまとめて訂正等を行なつた相当数の同意書については、無断流用の可能性が相当にあるものというべきである。
(IV) そして以上の点については、原告らが本件証拠として提出した宅地所有者の多数の同意書(たとえば甲第一号証の九ないし五五など)の記載自体からも同様のことが妥当するといえる。
すなわち、右の証拠についてみると、日付と他の部分の筆蹟が明らかに異なるものや、日付の訂正方法に極めて不自然なものが多数存在する。後者についていえば、たとえば、数字に書きこみを加え別の数字にしたり、あるいは元の数字の上を太くなぞることによつて別の数字にするなどのことをしながら、訂正印がまつたく押捺されていないものがあり、また同意書の日付訂正箇所(日付欄)とその訂正印の位置関係、あるいは訂正印と訂正のあつたことを示す「日付訂正」等のゴム印等による記載との位置関係が極めて不自然である(その理由は、日付訂正を予想しないで予め押捺してあつたいわゆる捨印を日付訂正のために利用したことによるものと解される。)ものが多数存在するのである。しかるに、もし前記(I)記載の被告組合側の証人らの供述にあるように、同意書を当該宅地所有者に示すなどして流用について了解を得たのであるならば、その際に日付の訂正をしてもらいあらためて訂正印をもらうことは極めて容易であり、前記のような不自然な訂正方法等をとる必要はまつたくないのであるから、そのような不自然な記載のある同意書が存在することについての合理的な理由を見出すことは困難というべきである。また、このことから逆に、そのような同意書は、ただちに無断流用であるといえないまでも、その可能性が相当にあるものといわなければならない。
(V) また証人江川二郎の証言(第二回)により真正に成立したと認める甲第四四号証と同証言によれば、江川二郎は、被告組合の設立に際して宅地所有者によつて提出されたとする全部の同意書を検討したところ、これらに用いられた同意書の用紙の様式(もつとも記載されている不動文字の文言はほぼ同一であるが、それが活版印刷か謄写版印刷かの別、また後者についてはその字体あるいは文字の配列等の区別による区分をいう。)は別表一(甲第四四号証)記載のとおり<1>ないし<18>に分類され、また、前記の同意書として使用された各様式の用紙の枚数は、施行地区の各工区(第一ないし第四工区)別に同表記載のとおりに集計されること、そのうち原告らが無効な同意であると主張する1ないし77の宅地所有者の同意書の用紙の様式については同表「該当する『甲号証』の分布」欄記載のとおり分類整理されること、しかるところ<1>ないし<18>各様式の用紙ごとにそれが最初に使用され、ないしは用紙が印刷された時期について検討すると、右の各様式に属する同意書の訂正前の日付や添付書類の作成日付から、ほぼ同表の「印刷年月」欄記載のとおり推測されることが認められる。そして右認定事実によれば、被告組合の設立に際して宅地所有者が提出した同意書は、そのほとんどが被告組合の施行地区の公告がなされた昭和三三年四月二二日の前に用意されてあつた第一次新組合のときのものであつたということができる。
さらに、証人江川二郎の証言(第二回)により真正に成立したと認める甲第四六号証と同証言によれば、江川二郎は前同様に、宅地所有者の同意書の全部について、これに記載されている日付(訂正されているものについては訂正後の日付)の筆蹟について検討したところ、同一人の筆蹟によるものであることがかなり明白なものが相当数あり、これを共通筆蹟ごとにまとめると、別表二(甲第四六号証)記載の<1>ないし<9>のとおり分類整理されること(なお、各工区欄等記載のNo.(ナンバー)は、各同意書について被告組合がつけた整理番号である。)、またこれらの各同意書について、各共通筆蹟別の枚数を集計すると、各工区ごとに同表記載のとおりとなること、そのうち原告らが同意の無効を主張する1ないし77の者については、その中の六一名について同表「該当する『甲号証』」欄記載のとおりに分類整理されることが認められる。そして、以上の筆蹟の鑑定及び分類は、専門家によつて行なわれたものではないけれども、きわめて限られた数字のみに関するものであり、しかも各筆蹟の特徴を極めて適格に把握し、これに基づき慎重に分類していることが証人江川二郎の証言(第二回)から十分に認められることに加え、本件に証拠として提出された同意書の筆蹟について当裁判所が別表二と対比しながらこれを調べたところによつても、その鑑定及び分類は概ね正確であると判断される(もつとも甲第一号証の四は同表の<2>に分類されるべきではない。)。
そして以上の同意書の用紙の問題や共通筆蹟の問題について検討したところは、いずれも前記(I)ないし(IV)に述べてきた点をさらに補強するものであるということができると解される。
(VI) そこで、以上を前提として、原告らが無断流用等を主張する同意書による同意の効力について、以下個別的な検討を行なうこととする(ただし、その順序は必ずしも別紙(一)ないし(四)の非同意者目録の番号順とは一致しない。)が、以下の記載においては、前記(IV)で触れた同意書の記載自体の問題、あるいは(V)で触れた別表一、二のとおり分類される同意書の用紙や日付の筆蹟の問題については、必要に応じ当該同意の効力の判断の理由として示すにとどめ、必ずしも一々これらの点をその判断の資料として用いたことあるいはその内容を示さない場合もある(なお、この場合においても同意の効力についての総合的な判断にあたつて、これらの資料を当然に考慮したうえで結論を出しているのであつて、ただその内容については一々記載しないこともあるというにすぎない。)。
(2) 9 宮内美恵
甲第一号証の九(同意書)、証人宮内美恵の証言により真正に成立したと認める甲第四号証の一、同証言と弁論の全趣旨により真正に成立したと認める甲第五号証の二(ただし宮内美恵作成部分)及び証人宮内美恵、同川野紀美の各証言を総合すると、甲第一号証の九の宮内美恵名義の同意書(なお、その用紙と日付の筆蹟は前記認定のとおり別表一、二のとおり分類される。)は、同人が第一次新組合設立の際に日付欄を空白のまま提出したものであること、同人が組合の設立について同意を求められたのは一回のみであり、さらに同人は第一次新組合と被告組合の区別を知らず、両者を同じ一つのものと思つていたこと、また右の同意書の日付の記入には同人はまつたく関知していないことが認められ、右の認定事実によれば、同人はその同意書が流用されることについて、なんら了解を与えていないと解されるから、右の同意書は無断流用されたものであつて、これによる同意は被告組合についての法一八条の同意としての効力を有しないものというべきである。
なお、証人宮内美恵の証言は、一部判然としない点がないではないが、前認定の同意書の用紙や日付の筆蹟の分類に照らしても全体としては右認定事実に沿う趣旨であると解せられ、また、同証言により真正に成立したと認める丙第九号証の七の記載も、同証言によれば、右文書は、組合の事実を早く終了させるために必要であると町内会役員に言われて同人が署名したものであると認められ、必ずしも同人の真意に基づく内容のものとは解せられないから、前記認定を覆すに足りないというべきである。
(3) 10 青木百合子
甲第一号証の一〇(同意書)、証人青木百合子の証言により真正に成立したと認める甲第四号証の二、第五号証の二(ただし青木百合子作成部分)、証人青木百合子及び同川野紀美の各証言を総合すると、甲第一号証の一〇の青木百合子の同意書(なお、その用紙と日付の筆蹟は、前記認定のように別表一、二のとおり分類される。)は、日付あるいは住所氏名について同人が記入したものではなく印影も同人のものとは違つているが、それはともかく第一次新組合の設立に際して提出されたものであること、同人は第一次新組合と被告組合の区別を知らないこと、さらに同人は同意書を流用することについて了解を求められたうえであらたに被告組合の設立に際して同意をしたことはないことが認められ、この認定に反する証人市川良次及び同山下賀三の供述は、前記青木証言あるいは同証言により同人が当時の記憶にしたがつて作成したものであることが認められる前掲甲第四号証の二に照らしても措信できず、また青木証言により真正に成立したと認める丙第九号証の八の記載も、同証言によれば必ずしもその内容を理解して署名押印したものではないと認められるから、右認定を覆すに足りないというべきである。
そうとすれば右の同意書による同意は、被告組合についてのものとは認められず、これについての同意としての効力が認められないというべきである。
(4) 11 長谷部政[金賓]
甲第一号証の一一(同意書)、証人長谷部政[金賓]の証言により真正に成立したと認める甲第四号証の三と同証言によれば、甲第一号証の一一の同人の同意書は同人の妻が日付欄を空白にしたまま署名押印して提出したものであること、右の同意書は第一次新組合の設立に際して提出されたものであるが、その後被告組合の設立について同意を求められたことはなく、同意書をあらためて提出したり流用を認めたことはないことが認められ、この認定を左右する証拠はない。なお長谷部証言中には、同意書を提出した時期が第一次新組合設立の際か被告組合設立の際か、やや判然としない点もないではないが、前記認定の右の同意書の用紙が作成された時期や筆蹟の分類(前記認定の別表一、二参照)に照らして、その提出時期は第一次新組合の際と解するのが相当である。
そうとすれば右の同意書は、無断流用されたものであつて、これによる同意は無効であるといわなければならない。
(5) 12 瀬戸昇之助
甲第一号証の一二(同意書)及び証人瀬戸昇之助の証言により真正に成立したと認める甲第四号証の四と同証言によれば、甲第一号証の一二の同人の同意書は、第一次新組合の設立に際して同人が作成して提出したものであるが、その後日付の訂正をしたことはなく、またこれに関し了解を求められたこともなく、さらに被告組合の設立に同意を求められたこともないことが認められ、この認定に反する証拠はない。
そうとすれば、同人の同意書は無断流用されたものであることが明らかであつて、これによる同意は無効である。
(6) 13 大乗寺
代表役員兼子恵順
証人兼子恵順の証言によれば、同人を代表役員名義とする甲第一号証の一三の同意書は、同人が作成し提出したものであることが認められるところ、その作成時期、あるいは日付の訂正や同意書の流用の有無に関しては、同証言は、極めて曖味であり(この点に関する証言は、むしろ支離滅裂で一貫性を欠くというべきであり、同人の証言態度には疑問を禁じえない。)、十分な心証を形成できないところであるが、全体として同人は日付の訂正を容認していたことも窺われないではないから、同証言によつては右の同意書が無断流用されたと断ずるわけにはいかない。そしてそうであるならば、同証言により真正に成立したと認める甲第四号証の五や右の同意書用紙の分類に関する前記認定事実(別表一参照)によれば、右の同意書が無断流用されたのではないかという疑いはなお存するとしても、これらの証拠によつてもまだ右事実を認めるに足りないというべきであつて、その他の本件全証拠によるも結局のところ、右の同意書による同意を無効とまで解することはできない。なお、同証言により真正に成立したと認める丙第九号証の九も、同証言によれば、同人が右文書を作成した真意について曖味であつてその証拠価値が乏しいとはいうものの、右結論の趣旨に一応沿うものといえる。
(7) 14 美尾いと
前記認定のように、甲第一号証の一四の美尾いとの同意書については、その用紙は、別表一の<1>に分類され第一次新組合の設立に際して最も古い時期に準備されたものであること、また記載されてある日付の筆蹟は、別表二の<1>に属する極めて多数の共通筆蹟によるものの一つであるところ、この事実に加え、証人江川二郎の証言(第一回)と原告光明院代表者尋問の結果及び弁論の全趣旨により真正に成立したと認める甲第四号証の六、並びに弁論の全趣旨(後記の丙第九号証の一〇の作成経緯に関する事実を含む。)によれば、右の同意書は、美尾いとが第一次新組合の設立に際して日付空白のまま提出したものを、後に被告組合の設立に際して同人の了解を得ることなくあらたに日付を記入してその同意書として流用されたのであることが認められ、この認定に反する証人市川良次の供述は措信できず、したがつて右同意書は無断流用されたものとしてこれによる同意は無効といわざるをえない。
なお、被告組合提出の丙第九号証の一〇は、美尾いとが被告組合の設立につき法一八条所定の同意をしていたことを示す内容の同人作成名義にかかる上申書(昭和四二年一〇月一〇日付)であるが、成立に争いのない甲第四七号証によれば、同人は昭和四二年一〇月一五日に死亡しているものであるところ、証人山田常次郎の証言によれば、美尾いとは同年一〇月七日以降は意識不明であつたこと、また丙第九号証の一〇などの上申書は、本件訴訟の訴状が被告組合に送達がなされた(右送達は同年一〇月六日になされたことは本件記録上明らかである。)後相当期間を経て、組合幹部が相談して用紙を作成しとりまとめたことが認められ、この認定事実によれば、丙第九号証の一〇の上申書は美尾いとが死亡した後か、少なくとも意識不明のとき作成されたものであることが明らかというべきであつて、同人の意思に基づいて作成されたものということは到底できず、本件の証拠とすることはできず、また他に前記結論に影響を及ぼす証拠もない。
(8) 16 寺岡又平
17 寺岡冨美子
甲第一号証の一六、同号証の一七(いずれも同意書)、証人寺岡栄造の証言により真正に成立したと認める甲第四号証の八及び九と同証言によれば、寺岡又平(甲第一号証の一六)及び寺岡冨美子(甲第一号証の一七)名義の各同意書は、いずれも、第一次新組合の設立に際して提出されたものを、同人ら(もつとも同人らは形式的な所有者ともいうべき者であつて、当該宅地についての実質的な権限は寺岡栄造が有していた。)の了解を得ることなく、すでに押捺されていた捨印を利用して日付を訂正したうえで、被告組合の同意書に無断流用されたものであることが認められ、この認定に反する証拠はない。したがつてこれらの同意書による同意は無効であるといわなければならない。
(9) 18 吉原源助
証人吉原源助の証言によれば、同人が甲第一号証の一八の同人の同意書を提出したのは一回のみであり、その時期は、昭和三三年よりもつと前で、「組合(旧無効組合と解される。)が潰れたころ」であることが認められ、この認定事実と右甲第一号証の一八、証人江川二郎の証言(第一回)により真正に成立したと認める(この認定に牴触する証人吉原源助の供述は措信しない。)甲第四号証の一〇によれば、右の同意書が提出されたのは第一次新組合の設立に際してであり、そのときは日付欄が空白のまま提出されたものであること、吉原源助は、被告組合の設立についての同意を求められたことはなく、したがつて右同意書が流用されることについて了解を与えたことはないことが認められる。この認定事実によれば、同人の同意書は、無断流用されたものであり、したがつてこれに基づく同意は無効と解すべきである。
なお、前記の吉原証言は、細かな点などにおいて措信できない点もかなり存するけれども、全体として前記認定事実に沿う部分に関しては十分措信できるものと解せられる。また、丙第九号証の一一は、その成立に関する立証が必ずしも十分尽くされているとはいい難いが、仮にその成立の真正を認めるとしても、前記認定事実に照らしてその記載内容の信用性は乏しいというべきであり、以上の結論を左右するものとはいえない。
(10) 21 岡田瑛男
甲第一号証の二一(同意書)及び証人岡田瑛男の証言によつても、甲第一号証の二一の同人の同意書は第一次新組合の設立に際して提出されたものが流用されたものであるか否か、あるいは仮に流用の事実があつたとしてもそれが同人の了解に基づくものであるか否かは、いずれも明らかでなく、また同証言により真正に成立したと認める甲第四号証の一三によつても、右書証は同証言によればその記載内容の信用性に欠けるところがあるといわざるをえないから、同意書の無断流用の事実を認めるに足りず、したがつて本件においては全証拠によるも結局同意書が無断流用されたとまで認めることはできず、これによる同意を無効であると解することはできないというべきである。
もつとも岡田証言によれば、同人は、第一次新組合と被告組合の区別を知らないことが認められ、このことと前記認定の同意書用紙や筆蹟に関し同人の同意書が別表一、二のとおり分類されることを総合すれば、この同意書が無断流用されたのではないかという疑いは払拭できないのであるが、他方、証人小池酉二の証言及び被告組合代表者尋問の結果(第二回)によれば、右の同意書の無断流用を否定する事実も窺われる(もつとも両者の供述内容には食い違いがあるなど、必ずしもその信用性は大きいものとはいえない。)から、いずれにしても前記の結論に変わりはないといわなければならない。
(11) 22 天坂トキ
甲第一号証の二二(同意書)及び証人天坂トキの証言によれば、甲第一号証の二二の同人の同意書は、同人方において、日付及び住所氏名欄を一切記入しないまま印だけを押捺して提出されたものであること、また同人が同意書を提出したのはその一回のみであつて、その後日付の訂正等の了解を求められたことはないことが認められ、この事実と同証言により真正に成立したと認める甲第五号証の一(ただし天坂トキ作成部分)、さらに前記認定の同人の同意書がその用紙について別表一のとおり分類される事実を総合すれば、同人の同意書は、第一次新組合の設立に際して提出されたものが、同人に無断で被告組合の設立に際して流用されたものと認められ、この認定に反する証拠はない。
したがつて右の同意書による同意は無効であるといわなければならない。
(12) 26 新本厚
甲第一号証の二六(同意書)、証人新本厚の証言及び弁論の全趣旨により真正に成立したと認める甲第四号証の一四、第五号証の一(ただし新本厚作成部分)と同証言並びに弁論の全趣旨を総合すれば、甲第一号証の二六の同人の同意書は、同人が日付空白のまま第一次新組合の設立に際して提出したものであるが、これに日付を記入し被告組合の設立に際しての同意書として流用することについての了解を同人が求められたことはなく、したがつて同人は第一次新組合と被告組合の設立運動の区別をまつたく聞いていないことが認められ、この認定を覆すに足る証拠はない。なお、右の新本証言は、一部明確でない部分もあるが、全体として前記認定の趣旨であると解すべきである。
そうとすれば、右の同意書による同意は、無断流用されたものであるから、被告組合についての法一八条所定の同意としては無効であるといわなければならない。
(13) 27 松田喜三郎
甲第一号証の二七(同意書)、証人松田喜三郎の証言により真正に成立したと認める甲第四号証の一五及び第五号証の一(ただし松田喜三郎作成部分)と同証言並びに弁論の全趣旨を総合すれば、甲第一号証の二七の同人の同意書は、同人が第一次新組合の設立に際して、日付及び住所氏名欄を空白のまま印影のみ押捺して提出したものであり、これが被告組合についての同意書として流用されることについて了解を求められたことはないことが認められ、この認定に反する丙第九号証の一六(その成立の真正は同証言により認められる。)の記載も、右認定に照らし採用できないし、他に右認定を覆すに足る証拠はない。なお、右の松田証言は、一部判然としない部分がないわけではないが、全体として右認定の趣旨に沿うものと解すべきである。
以上の事実によれば、右の同意書は無断流用されたものであつて、無効であるというべきである。
(14) 28 新藤惣吉
甲第一号証の二八(同意書)、証人新藤惣吉の証言により真正に成立したと認める甲第四号証の一六及び第五号証の一(ただし新藤惣吉作成部分)と同証言を総合すれば、甲第一号証の二八の同人の同意書(なお、その用紙及び筆蹟は、前記認定のように別表一、二のとおりに分類される。)は、第一次新組合の設立に際して、日付を空白にするよう求められてそのようにして同人が提出したものであり、他に同意書を提出したことはなく、同人は、第一次新組合と被告組合との区別を知らず、右の同意書が流用されることについて了解を求められたこともなかつたことが認められる。なお新藤証言により真正に成立したと認める丙第九号証の一七の記載は、同証言により窺われるその作成経緯等に照らし必ずしも信用できるものではなく、右認定事実に照らしても採用できないし、他に右認定を覆すに足る証拠はない。
そうとすれば、右の同意書は、無断流用されたものと認めることができるから、したがつてこれに基づく同意は無効であると解すべきである。
(15) 29 和田晴
甲第一号証の二九(同意書)、証人和田晴の証言によれば、同人は、そもそも甲第一号証の二九の同人名義の同意書を作成したことはなく、これに記載されている文字や印影はいずれも同人のものではないこと、また右の同意書は同人の夫が作成したものでもなく、いずれにしても同人が右の同意書を提出したことはなかつたことが認められ、この認定に反する証拠はない。なお、和田証言により真正に成立したと認める甲第五号証の二(ただし和田晴作成部分)には、右の同意書は、同人が第一次新組合設立に際して提出したものが、無断流用された趣旨の記載があるけれども、同証言によれば、右の文書(甲第五号証の二)は前記認定と同趣旨において同人が作成したものであり、少なくとも同人は被告組合の設立に際して同意を求められたことはなく、したがつてこれに同意していないことが認められるから、以上によれば、いずれにしても右の同意書に基づく同意は無効であるといわなければならない。
(16) 30 芝田源吾
甲第一号証の三〇(同意書)、証人芝田源吾の証言により真正に成立したと認める甲第五号証の二(ただし芝田源吾作成部分)と同証言を総合すれば、甲第一号証の三〇の同人の同意書は、第一次新組合の設立に際して同人が日付空白のまま提出したものを、「昭和参拾弐年」の不動文字部分は太くなぞることによつて訂正印を用いないまま「昭和参拾参」年に訂正し、また空白の月日欄については数字を記入することによつて、被告組合についての同意書として流用されたものであること、なお、同人は、右の日付の訂正あるいは記入に関知しておらず、また被告組合の設立についての同意を求められたことはないことが認められ、この認定に反する証拠はない。
そうとすれば、右の同意書は無断流用されたものというべきであるから、これに基づく同意は無効といわなければならない。
(17) 31 田中純治
甲第一号証の三一(同意書)、証人田中純治の証言により真正に成立したと認める甲第五号証の二(ただし田中純治作成部分)と同証言を総合すれば、甲第一号証の三一の同人の同意書は、冬の寒い時期に、したがつて第一次新組合設立に際して日付を空白のまま提出したものであり、同人が同意書を提出したのはその一回のみであること、右の同意書にその後「昭和三十三年五月三十日」の日付が記入されたことについて同人は承知しておらず、被告組合の設立についての同意を求められたことはないことが認められ、以上によれば、右の同意書は無断流用されたものと認めるべきであつて、この認定に反する証拠はない。
そうとすれば、右の同意書に基づく同意は、被告組合についてのものとしては無効であるというべきである。
(18) 32 末次幸一
甲第一号証の三二(同意書)、証人末次幸一の証言により真正に成立したと認める甲第四号証の一七、第五号証の二(ただし末次幸一作成部分)と同証言によれば、甲第一号証の三二の同人の同意書は、同人が第一次新組合の設立に際して日付を空白のまま提出したものを、被告組合についての同意書として流用されたこと、その流用にあたつて日付を記入することについて、同人は了解を求められたこともなく、また被告組合の設立についてあらためて同意を求められたこともないことが認められ、右認定事実によれば右の同意書は同人に無断で流用されたものというべきである。なお、以上の認定に反する丙第九号証の一八(その成立の真正は、証人末次幸一の証言により認められる。)は、同証言によれば、同人の右の文書の作成の動機は、これを作成すれば裁判所に証人として出頭する必要はないなどの被告組合の役員による利益誘導に起因するものと認められるから、証明力に欠け、採用するに由ないといわなければならない。
以上によれば、右の同意書に基づく同意は無効であると解さなければならない。
(19) 34 飯島秋雄
甲第一号証の三四(同意書)、証人飯島秋雄の証言並びに弁論の全趣旨によれば、甲第一号証の三四の同人の同意書(なお、その用紙と筆蹟については前記のように別表一、二のとおりに分類される。)は、少なくとも日付の欄についてはこれを空白にしたまま第一次新組合の設立に際して同人が提出したものであり、同人はその一回しか同意書を提出していないこと、同人は第一次新組合から被告組合へと設立運動が変わつたことを承知しておらず、したがつて右の同意書に日付が記入されて被告組合についての同意書とされたことについてなんら了解を求められていないことが認められ、この認定に反する証拠はない。
したがつて、以上の認定事実によれば、右の同意書は無断流用されたとみるべきであつて、これによる同意は無効であるといわなければならない。
なお、証人飯島秋雄の証言により、同人の妻が作成したと認められる甲第五号証の三によつても、結局右認定に沿う事実を認めることができるというべきであり、前記の証拠とあわせて、これによつても右と同じ結論になることになる。
(20) 35 高山四郎
甲第一号証の三五(同意書)、証人高山四郎の証言により真正に成立したと認める甲第五号証の四(ただし高山四郎作成部分)と同証言及び証人江川二郎の証言(第一回)によれば、甲第一号証の三五の同人の同意書は、第一次新組合の設立に際して提出されたものが、日付を訂正したうえで被告組合についての同意書として流用されたものであること、同人は日付の訂正について了解したことはなく、右の同意書の訂正後の日付の文字や上部欄外の「日付変更印」の文字は同人が書いたものではない(なお、これらの文字と訂正印の位置関係に不自然さがみられる。)こと、したがつて、同人は第一次新組合から被告組合へと設立運動が変わつたことを知らないことが認められ、証人渡部運平の証言もこの認定の妨げとはならず、また右認定に反する丙第九号証の一九(証人高山四郎の証言により真正に成立したと認める。)は、同証言あるいは右認定事実に照らして採用できない。
そうとすれば、右の同意書は無断流用されたものであつて、これに基づく同意は無効であるといわなければならない。
(21) 36 幸田チヤウ
証人幸田チヤウの証言と弁論の全趣旨によれば、同人が、組合設立についての甲第一号証の三六の同意書に関し、設立運動をしていた島田作次郎に対し印鑑を貸して押捺を委ねたのは一回のみであり、その後は同意書に押捺を求められた事実はないこと、また、同人は第一次新組合から被告組合へと設立運動が推移したのを知らないことが認められ、この事実と右甲第一号証の三六(同意書)によれば、右の同意書にある同人の印影は、名下の印影及び欄外のいわゆる捨印とも同時に押捺されたものであり、したがつて右の同意書の日付はその後に捨印を利用して「昭和三十一年十二月十三日」から「昭和三十三年五月三十日」へと変更されたものであると推認できる(なお訂正印と訂正箇所等の位置関係は極めて不自然であることからもこの事実を推認できる。)。そして、以上認定事実を総合し、これと証人幸田チヤウの証言により真正に成立したと認める甲第五号証の四(ただし幸田チヤウ作成部分)をあわせて判断すれば、同人の同意書は第一次新組合について提出されたものを被告組合に流用したものであつて、しかもその際に同人の了解を得て日付訂正をすることなく無断で流用が行なわれたことが認められ、したがつて右の同意書による同意には被告組合についての同意としての効力がないものというべきである。
(22) 37 小能幸太郎
甲第一号証の三七の小能幸太郎の同意書によれば、その日付訂正に関する記載それ自体から、右の同意書が流用されたものであることが認められるけれども、証人小能幸太郎の証言によつても、それ以上に右の流用が同人に無断でなされたことを認めることができず、また同証言により真正に成立したと認める甲第五号証の四(ただし小能幸太郎作成部分)も、同証言に照らして証明力に乏しいというべく、右事実を認めるに足りないといわざるをえず、結局本件においては全証拠によるも、右の同意書の無断流用を認めることはできない。
したがつて、以上によれば、右の同意書に基づく同意が無効であるとまで断ずることはできないといわなければならない。
(23) 39 山田一郎
甲第一号証の三九(同意書)、証人山田一郎の証言により真正に成立したと認める甲第五号証の四(ただし山田一郎作成部分)と同証言を総合すると、甲第一号証の同人の同意書は、第一次新組合の設立に際して同人が提出したものを、その後捨印を利用して日付を訂正したうえで被告組合についての同意書に流用されたこと、右の日付訂正は同人がしたものではなく、またその了解を求められたこともなく、同人は第一次新組合から被告組合へと設立運動が推移したのを知らないことが認められ、結局以上によれば、右の同意書は同人に無断で流用されたものと認めることができ、この認定に反する証拠はない。
右の事実によれば、同人の同意書による同意は、被告組合についての法一八条所定の同意としての効力を有しないものというべきである。
(24) 40 竹村元作
甲第一号証の四〇(同意書)、証人竹村元作の証言により真正に成立したと認める甲第五号証の四(ただし竹村元作作成部分)と同証言を総合すると、甲第一号証の四〇の同人の同意書は、同人が第一次新組合の設立に際し提出したものを、その後に捨印を利用して日付を訂正し被告組合についての同意書に流用したものであること、右の訂正後の日付は同人が記載したものではなく、また訂正について了解を求められたこともないこと、したがつて右の同意書は同人に無断で流用されたものであることが認められ、この認定に反する丙第九号証の二二(証人竹村元作の証言により真正に成立したと認める。)は、同証言によれば、被告組合の役員からこれを作成すれば裁判所に出頭する必要がないといわれ内容を詮索することなく同人が作成したものであるから、その信頼性に乏しく採用できず、他に右認定を覆すに足る証拠はない。
したがつて以上によれば、右の同意書に基づく同意は被告組合についてのものとしては無効であるといわなければならない。
(25) 41 宮阪栄一
甲第一号証の四一(同意書)、証人宮阪栄一の証言により真正に成立したと認める甲第四号証の一八、甲第五号証の四(ただし宮阪栄一作成部分)を総合すれば、甲第一号証の四一の同人の同意書が無断流用されたとする原告らの主張に沿う事実が窺われなくはない。しかし他方、証人宮阪栄一の証言により真正に成立したと認める丙第九号証の二三と同証言(もつとも同証言は、一部客観的な事実に符合しない部分もあり、また一貫性を欠き、かなりその信用性に疑いがもたれる。)によれば、同人は、同意書の日付の訂正を了解していたのではないかと認めうる余地もあり、また前掲甲第四号証の一八、第五号証の四も、同証言によれば、その作成の動機等に照らし証明力が強いものともいえず、結局、前記各証拠によつては同人の同意書が無断流用されたとまで認めるにいささか足りないというべきであり、本件においては、右の同意書の無断流用についてその疑いがなお残るけれども、全証拠によるも右事実を認めるに足りないといわなければならない。
したがつて、右の同意書による同意が無効であるということはできない。
(26) 42 大木金太郎
成立に争いのない甲第五一号証の一と弁論の全趣旨によれば、大木金太郎は昭和四二年一二月三日に死亡し、本件訴訟において原告本人として供述できなかつたと認められるところ、甲第一号証の四二(同意書)といずれも弁論の全趣旨により真正に成立したと認める甲第四号証の一八、第五号証の四(ただし大木金太郎作成部分)によれば、甲第一号証の四二の同人の同意書は、第一次新組合に同人によつて提出されたものを、捨印を利用して日付を訂正し被告組合についての同意書として流用されたものであること、同人は右の日付訂正あるいは同意書の流用について了解を求められたことはなかつたことが認められ、この認定に反する証拠はない。
以上によれば右の同意書は無断流用されたものであつて、これに基づく同意は無効であるといわなければならない。
(27) 44 島喜一
甲第一号証の四四(同意書)、原告島喜一本人尋問の結果により真正に成立したと認める甲第五号証の五(ただし島喜一作成部分)と同原告尋問の結果を総合すれば、甲第一号証の四四の同人の同意書は、第一次新組合の設立の際に同人が提出したものを、その捨印を利用して日付を訂正し(なお、証人山田常次郎の証言によれば、右の日付訂正は組合の事務職員であつた山田常次郎が行なつたことが認められる。)、これを被告組合について流用したものであること、名義人である島喜一は、右の日付訂正あるいは同意書の流用についてまつたく関知しておらず、当時は第一次新組合と被告組合の区別を知らなかつたことが認められる。
右の事実によれば同人の同意書は無断流用されたことが明らかであつて、これに基づく同意は無効であるというほかない。
(28) 46 荻野誠
甲第一号証の四六(同意書)、証人荻野誠の証言により真正に成立したと認める甲第五号証の一(ただし荻野誠作成部分)と同証言によれば、甲第一号証の四六の同人名義の同意書にある署名あるいは印影は、いずれも同人のものではなく、同人は右の同意書の作成に関与していないことが認められ、この認定に反する丙第九号証の二五(証人荻野誠の証言により真正に成立したと認める。)は、同証言によれば、この文書を提出すれば清算金を徴収しない旨を組合役員からいわれて作成提出されたものと認められるから採用できず、他に右認定を覆すに足る証拠はない。
以上によれば、右の同意書は、その名義人である荻野誠が関与せずに作成されたものであり、したがつて同人の意思に基づいて作成されたものではないから、これに基づく同意は無効といわなければならない。
(29) 47 田中一郎
48 田中長次郎
甲第一号証の四七及び同号証の四八(いずれも同意書)、証人田中一郎の証言により真正に成立したと認める甲第四号証の二〇及び同号証の二一並びに同証言によると、甲第一号証の四七の田中一郎名義の同意書の氏名等の文字の記載や印影は、いずれも同人あるいはその家族のものでなく、同人は右の同意書の作成に関与しておらず、これを提出したこともないこと、右の事情は甲第一号証の四八の田中長次郎名義の同意書についても同様であること(なお、長次郎は一郎の父であるが、同人の所有宅地の実質的な権利は一郎に委ねられていることが認められる。)が認められ、この認定に反する証人関野良雄の供述は措信できず他に右認定を覆すに足る証拠はない。
そうとすれば、右の各同意書は、いずれもその名義人らの意思に基づいて作成されたものではないから、これによる同意になんらの効力も認められないことは当然である。
(30) 49 天野三郎
甲第一号証の四九(同意書)、証人天野三郎の証言により真正に成立したと認める甲第四号証の二二、同証言と弁論の全趣旨を総合すれば、甲第一号証の四九の同人名義の同意書にある氏名等の文字はいずれも同人の記載によるものではなく、また印影も同人のものとはちがつていると解されるが、それはともかく、同人は組合(これが第一次新組合か被告組合かは必ずしも判然としない。)の設立についての同意を求められた際にこれを断り、したがつて同意書を提出したことは一度もないことが認められ、以上の事実によれば、右の同人名義の同意書は同人の意思に基づかないで作成されたものであるが、仮にしからずとしても少なくとも被告組合に対する関係で同人が右の同意書を提出したことはないことが認められる。
そうとすれば、右の同意書による同意は、被告組合についての法一八条所定のものとしては、なんらその効力を有しない無効なものであるといわざるをえない。
(31) 50 小林コト
甲第一号証の五〇(同意書)、証人小林コトの証言により真正に成立したと認める甲第五号証の一(ただし小林コト作成部分)と同証言によれば、甲第一号証の五〇の同人名義の同意書にある氏名等の文字の記載あるいは印影は、いずれも同人のものではなく、同人は組合の設立に関し同意書に署名押印してこれを提出したことはないことが認められ、証人渡部運平の証言もこの認定の妨げとはならない。以上認定事実によれば右の同意書は、その名義人が関与しないで作成されたものであり、その意思に基づいて作成されたものでないと解される。
したがつて右の同意書に基づく同人の同意は無効であると解すべきである。
なお丙第九号証の二六は、その成立についての立証が必ずしも十分でないが、仮にこれを認めるとしても前掲証拠に照らして採用できないといわざるをえない。
(32) 51 延命寺
代表役員島村智光
甲第一号証の五一(同意書)、証人島村智光の証言により真正に成立したと認める甲第五号証の六(ただし島村智光作成部分)、同証言及び原告光明院代表者尋問の結果を総合すると、甲第一号証の五一の延命寺島村智光名義の同意書にある氏名等の文字は、いずれも延命寺の住職である島村智光が書いたものではなく、住所等にも記載の誤りがあること、またその印影も同人あるいはその家族らの所持印にないこと、なお、仮に第一次新組合の設立に際して同意書を提出していたとしても、同人は被告組合の設立に際しては同意書を提出したことがなく、また同意書の流用について了解を求められたこともないことが認められ、この認定を覆すに足る証拠はない。
右認定事実によれば、右の同意書は、その名義人の意思に基づいて作成されたものではないか、あるいは少なくとも被告組合の設立に際して名義人の了解に基づき提出されたものでないことは明らかであるから、いずれにしてもこれに基づく同意は、被告組合についての法一八条所定の同意としての効力を有しないものといわなければならない。
(33) 52 乙黒盛之
甲第一号証の五二(同意書)、いずれも証人乙黒盛之の証言により真正に成立したと認める甲第四号証の二三及び第五号証の六(ただし乙黒盛之作成部分)並びに同証言を総合すれば、甲第一号証の五二の同人の同意書にある氏名等の文字はいずれも同人が書いたものではなく、また印影は、仮に同人の実印によるものであるとしても、同人がこれを押捺したりまた押捺を許したものではないこと、同人は旧無効組合の土地区画整理事業で減歩されていたので、第一次新組合であると被告組合であるとを問わず組合の設立には反対であり、したがつていずれの組合についても同意書を提出したことはなかつたことが認められ、この認定を覆すに足る証拠はない。
そうすれば、右の同意書は、印影部分の作成の経緯についてやや問題があるとしても、名義人たる乙黒盛之の意思に基づいて作成されたものでないことは明らかというべきであつて、これによる同意は無効であるといわざるをえない。
(34) 53 斉藤勇
甲第一号証の五三(同意書)、証人斉藤勇の証言により真正に成立したと認める甲第五号証の四(ただし斉藤勇作成部分)、同証言及び証人江川二郎の証言(第一回)を総合すると、甲第一号証の五三の同人名義の同意書にある氏名等の文字は、すべて同人が記入したものでなく、また印影も同人のものとは異なつているものであること、また同意書の氏名が当初は同人の父である「又平」と記載され、これが「勇」に訂正されているなど極めて不自然なものであること、いずれにしても、同人あるいはその家族らは右のような同意書を作成して提出したことはなかつたことが認められ、この認定を覆すに足る証拠はない。
したがつて右認定事実によれば、斉藤勇名義の同意書は、同人の意思に基づいて作成されたものでないことが明らかであつて、これによる同意はその効力を有しない無効なものといわなければならない。
(35) 54 田口かつ
甲第一号証の五四(同意書)と証人田口洪治の証言によれば、甲第一号証の五四の田口かつの同意書(なお、その用紙あるいは筆蹟が別表一、二のとおり分類されることは前記のとおりである。)は、同人の夫である田口洪治が同人の了解を得て代筆したものであり、その際習慣として捨印も押捺しておいたこと、また、右の同意書は、当初「昭和三十二年二月十四日」の日付が記入されてあつたが、これが「昭和33年5月19日」と訂正されているところ、その訂正後の文字は右両名が書いたものではなく、同人らのいずれの筆蹟でもないこと、日付訂正について同人らは了解を求められたことはなく、したがつて同人らは第一次新組合から被告組合へと設立運動が推移したことをまつたく知らなかつたことが認められ、以上認定事実によれば、右の同意書は、第一次新組合の設立に際して提出されたものであり、また、これを被告組合についての同意書に流用するについては、その名義人の了解を得ることなく無断で行なわれたものと認むべきである。
そうとすれば、右の同意書による同意は、被告組合についての法一八条所定の同意としては、その効力を有しない無効なものというべきである。
(36) 55 能勢博雄
甲第一号証の五五の能勢博雄名義の同意書によれば、その日付の記載が「昭和三十二年」(以下の月日不明)とあつたのを「昭和33年5月30日」と訂正されていることが認められ、この事実によれば、右の同意書(なお、その用紙と筆蹟が別表一、二のように分類されることは前記のとおりである。)は、第一次新組合の設立に際して提出されたものを被告組合に流用したものであることが推認できる。
しかし、証人能勢博雄の証言によつても、右の同意書がいかなる経緯で作成され、またこれが被告組合についての同意書として流用されるにつき同人らはどのように関与していたかなどの点は、まつたく判然としない(もつとも、同証人は、右の同意書の作成に関与していない旨供述するが、筆蹟等からみて到底措信できない。)以上、本件においては、いまだ右の同意書が無断流用された事実を認めることはできないといわざるをえない。
もつとも、証人江川二郎の証言(第一回)と弁論の全趣旨により真正に成立したと認める甲第四号証の二四及び同証言によれば、右の同意書は、名義人の意思に基づいて作成されたものではないことが窺われないでもないが、他方証人斉藤真治の証言により真正に成立したと認める丙第九号証の二七には、それとは反対の事実が記載されているから、結局本件においては、右の同意書に基づく同意が無効であることを示す事実についての立証は尽くされなかつたことに帰するといわざるをえない。
したがつて、以上によれば右の同意書による同意は、これを無効であると解することができないというべきである。
(37) 59 新井房蔵
甲第一号証の一(同意書)、証人新井康弘の証言により真正に成立したと認める甲第一五号証の二及び三、同証言並びに原告遠山三郎本人尋問の結果を総合すると、甲第一五号証の一の新井房蔵名義の同意書の氏名等は、いずれも新井房蔵の書いたものでもなければ、被告組合の設立当時田端に居住していた同人の息子の康弘が書いたものでもなく、印影も同人らのものではないこと、右の同意書の新井房蔵の住所は、「富岡市富岡」と書くべきところを「宮岡町大字宮岡」と誤記されている(その理由は、登記簿の誤記に加え、富岡町に市制が施行されたことによるものと解される。)が、同人らやその家族であるならばそのような間違はしないと考えられること、要するに右の同意書は、同人らがまつたく関与しないで、同人らの意思に基づかないで作成されたものであることが認められ、この認定に反する証拠はない。
以上によれば、右の同意書による同意は、なんらの効力を有しない無効なものであることが明らかである。
(38) 60 村田俊明
甲第一六号証の一(同意書)、原告遠山三郎本人尋問の結果により真正に成立したと認める甲第一六号証の二と同尋問の結果を総合すれば、甲第一六号証の一の村田俊明名義の同意書にある氏名等の文字は、同人あるいはその家族が記入したものではなく、また、同人の当時の住所は「上板橋五ノ五五三四」が正しいにもかかわらず「上板橋五ノ五五三二」と誤記されていること、同人は右の同意書の作成に関与したこともなく、これを提出したこともないことが認められ、証人小池酉二の証言もこの認定と矛盾するものではなく、他に右認定を覆すに足る証拠はない。したがつて以上によれば、右の同意書は、その名義人たる村田俊明の意思に基づかないで作成提出されたものであり、これによる同意は無効であるといわなければならない。
なお、証人小池酉二の証言によれば、右の同意書は、当時村田俊明の所有宅地などの財産を管理していた同人の母親から提出を受けたことが窺われるが、当時宅地の実質的な所有権者であるならばともかく、単なる管理人にすぎない者は、所有権者の了解を得ることなくこれに代わつて法一八条所定の同意を行なう権限を有しないというべきであるから、右の事実によつて、同意が無効であるとする前記結論には変わりがない。
(39) 63 地蔵寺
代表役員一月正空
甲第一九号証の一(同意書)、証人一月正空の証言により真正に成立したと認める甲第一九号証の二と同証言を総合すれば、甲第一九号証の一の地蔵寺住職一月正空名義の同意書は、第一次新組合の設立に際して、一月正空が作成してこれを提出したものであるが、その後当初から押捺されていた捨印を利用して日付が訂正されて被告組合の同意書に流用されたこと、しかし、右の流用に関し、同人は、日付訂正等の了解を求められたこともなく、流用がなされた事実も知らなかつたことが認められ、この認定に牴触する証人稲垣左十郎の証言は採用することができない。
右認定事実によれば、右の同意書は第一次新組合のときのものが無断流用されたのであつて、これによる同意はなんら法定の効力を有せず、無効であるというべきである。
(40) 72 清水光太郎
甲第二八号証の一(同意書)、証人清水光太郎の証言により真正に成立したと認める甲第二八号証の二、同証言及び原告遠山三郎本人尋問の結果を総合すると、清水光太郎は、被告組合の施行地区内にすでに道路敷地となつている土地を所有していたが、同地区内には居住しておらず、右の所有土地に関心をもつていなかつたこと、甲第二八号証の一にある氏名等の文字は、同人が記入したものではなく、また印影も同人のものではないこと、したがつてまた右の同意書は同人がまつたく知らない間に被告組合に提出されていたものであることが認められる。
以上によれば、右の同意書は、名義人たる同人が関与せず、その意思に基づかないで作成されたものであつて、これによる同意は無効と解するほかない。
なお、証人関野良雄の証言によれば、右の同意書は、清水光太郎の弟であり、前記の土地を管理していた清水近三郎から提出を受けたことが窺われるが、当該宅地の実質的所有者であるならばともかく、単なる管理人にすぎないものは、所有権者の了解を得ないで(なお、証人清水光太郎の証言と弁論の全趣旨によれば、同人は近三郎に対しそのような了解あるいは同意を行なうことを根拠づける権限を与えたことはなかつたことが認められる。)法一八条所定の同意を行なう権限を有することはないものというべきであつて、仮に右の事実が認められるとしても、前記の結論に影響しない。
(41) 73 志波藤江
甲第二九号証の一(同意書)、成立に争いのない甲第五〇号証、証人志波藤江の証言により真正に成立したと認める甲第二九号証の二、同証言及び原告遠山三郎本人尋問の結果を総合すると、志波藤江は、田端には昭和二七年ころから二年間くらい居住しただけでその後本郷に転居していること、しかるに甲第二九号証の一の同人名義の同意書には田端の住所が記載されており、また右同意書の氏名等の文字は、同人や同人の夫が記載したものではなく、印影も同人のものとは異なつていること、さらに、同人は右のように同意書を作成して提出したことはまつたくなかつたことが認められ、この事実によれば、右の同意書は、その名義人の知らない間に、その意思に基づかないで作成されたものであつて、これによる同意が法一八条所定の同意としてなんらの効力を有せず無効であることは明らかである。
(42) 74 市川誠一
甲第三〇号証の一(同意書)、証人市川誠一の証言及び弁論の全趣旨によれば、甲第三〇号証の一の同人名義の同意書は、同人の父逸平(昭和二五、六年ころ死亡)が所有していた土地に関するものであるが、当該土地はすでに大正時代に道路として寄付したものであつて、ただその所有名義が残つていたものにすぎず、したがつて、右の同意書は、組合関係者に依頼され、後に権利を主張しない趣旨で提出したものであり、同人は必ずしも区画整理に賛成してこれを提出したものではないことが認められる。また右の同意書が市川逸平の相続財産につき、誠一がその相続人として提出したものであることは、その記載自体から明らかであるところ、証人市川誠一の証言によれば、同人には同人自身を含め六名の兄弟があり、そのうち四名が存命であることが認められる。
以上の事実によれば、右の同意書による同意は、組合の設立についての法一八条所定の同意とは認め難いのみならず、仮にこれを肯定するとしても、相続財産に関し四名の相続人のうちの一人のみによつてなされた同意であると推認される結果、前記(五)の説示に照らしいずれにしても無効であるといわざるをえない。
なお、証人市川誠一の証言により真正に成立したと認める甲第三〇号証の二と同証言及び原告遠山三郎本人尋問の結果によれば、市川誠一の昭和四七年六月一〇日当時の記憶によれば、同人はそもそも前記の同意書を作成し、あるいは提出したことがなく、右の同意書は同人の意思に基づかないで作成されたものであることが窺われる余地もあるから、仮に前記認定の事実が認められないとする余地があつたとしても、右の同意書による同意が無効であるとする結論は、本件証拠上動かし難いものというべきである。
(43) 15 丸山あき
甲第一号証の一五(同意書)によれば、丸山あきの同意書は、その日付の訂正に関する記載それ自体から第一次新組合設立に際してのものが流用されたものであると認められるところ、証人江川二郎の証言(第一回)により真正に成立したと認める甲第四号証の七には、右の同意書が無断流用されたという原告らの主張に沿う事実が窺われる。しかし、右証拠のみによつては、その証拠としての性質上、いまだ右の同意書が無断流用されたことをただちに認定するになお不十分であるというべきであり、いささかの疑問は残るけれども、本件においてはその他全証拠によるも、結局これを認めるに足りないといわなければならない。
したがつて右の同意書による同意を無効とすることはできない。
(44) 19 大川合名会社
清算人大川鉄雄
甲第一号証の一九(同意書)によれば、大川合名会社清算人大川鉄雄名義の同意書は、その日付訂正の記載自体から第一次新組合の設立に際してのものが流用されたものであることが認められるところ、証人江川二郎の証言(第一回)と弁論の全趣旨により真正に成立したと認める甲第四号証の一一によれば、右の同意書が無断流用されたとする原告らの主張に沿う事実が窺われる。しかし、右証拠のみによつては、いまだ無断流用を認定するになお足りないことは前同様であり、結局全証拠によるもこれを認めることはできない。
したがつて、右の同意書による同意が無効であるということはできない。
(45) 20 磯田淳二
甲第一号証の二〇(同意書)によれば、磯田淳二の同意書は、その日付訂正の記載自体から、第一次新組合のときのものが流用されたことが認められるけれども、甲第四号証の一二は、その成立についての立証が尽くされておらず、その他本件全証拠によるも右の同意書が無断流用されたものであることを認めることはできない(なお、仮に弁論の全趣旨により前記甲第四号証の一二の成立の真正を認めたとしても、なお、無断流用の事実を認めるに足りないことは前同様である。)。
そうとすれば、右の同意書に基づく同意が無効なものということはできない。
(46) 23 小原志き・小原やす子
小原千代子
証人江川二郎の証言(第一回)により真正に成立したと認める甲第五号証の一(小原やす子作成部分)と同証言中には、甲第一号証の二三の小原志きらの同意書は無断流用されたものであることが窺われなくはないが、他方証人谷久二の証言によればこれとは相容れない事実も窺われ、結局本件においては、右の同意書が無断流用されたものであるということを認めることはできない。
したがつて、右の同意書による同意は、無効とはいえない。
(47) 24 吉田祥次郎
証人江川二郎の証言(第一回)により真正に成立したと認める甲第五号証の一(ただし吉田祥次郎作成部分)と同証言によれば、甲第一号証の二四の吉田祥次郎の同意書は、第一次新組合のときのものが被告組合の設立に際して無断で流用されたものであることが窺われなくはないが、他方被告組合代表者尋問の結果(第一回)と弁論の全趣旨により真正に成立したと認める丙第九号証の一四、証人島田作次郎の証言(第二回)によれば、右の同意書は、被告組合の設立に際して吉田祥次郎から提出されたものであると認める余地もあり、結局、本件においては右同意書が無断流用されたと認めることはできない。
したがつて右同意書に基づく同意を無効と解することはできない。
(48) 25 太田惣吉
証人江川二郎の証言(第一回)により真正に成立したと認める甲第五号証の一(ただし太田惣吉作成部分)と同証言によれば、甲第一号証の二五の太田惣吉の同意書は無断流用されたものであることが窺われるけれども、他方、弁論の全趣旨により真正に成立したと認める丙第九号証の一五によれば、これと相容れない事実も窺われるから、本件においては、結局のところ右の同意書が無断流用されたと認めることはできないというべきである。
したがつて、右の同意書による同意を無効であるとすることはできない。
(49) 33 屋代サト子
甲第五号証の二(ただし屋代サト子(旧姓槇尾)作成部分)については、その成立の真正を認めるに足る証拠はなく、本件においては、全証拠によるも甲第一号証の三三の槇尾サト子の同意書が無断流用されたものであることを認めるに足りないというべきである(なお、右甲第五号証の二の成立の真正を弁論の全趣旨により認めえたとしても、右証拠によつてもなお右の同意書の無断流用を認めるに足りないことは、前記(43)などと同様である。)。
そうとすれば、右の同意書による同意が無効であるとすることはできないというべきである。
(50) 38 栗原留五郎
証人江川二郎の証言(第一回)により真正に成立したと認める甲第五号証の四(ただし栗原留五郎作成部分)と同証言によれば、甲第一号証の三八の栗原留五郎の同意書は第一次新組合のときのものが無断流用されたものであることが窺われるけれども、他方、被告組合代表者尋問の結果(第一回)と弁論の全趣旨により真正に成立したと認める丙第九号証の二一及び証人魚見五作、同渡部運平の各証言によれば、右の同意書の日付を訂正し、被告組合の設立についてのものとして流用することは、栗原留五郎の了解に基づいて行なわれたとも窺われ、結局本件においては右の同意書が無断流用されたものであるとは認めるに足りない。
そうとすれば、右の同意書による同意を無効であるとすることはできないというべきである。
(51) 43 近藤久美子
甲第一号証の四三(同意書)によれば、近藤久美子の同意書は、その日付訂正の記載自体から、第一次新組合設立に際してのものが流用されたものであることが認められるところ、原告光明院代表者尋問の結果により真正に成立したと認める甲第五号証の五(近藤久美子作成部分)と同尋問の結果によれば、右の同意書は近藤久美子に無断で流用されたことが窺われないではない。しかし右各証拠のみによつてはなお無断流用の事実を認めるに足りないこと前記(43)などと同様であり、本件では結局全証拠によるもこれを認めることができないというべきである。
したがつて、右の同意書による同意を無効と解することはできない。
(52) 45 沢田高一
証人川野紀美の証言及び原告波木武雄本人尋問の結果により真正に成立したと認める甲第五号証の二と右証言及び尋問結果によれば、甲第一号証の四五の沢田高一名義の同意書は、同人が作成したものではなく、その意思に基づかないものであることが窺われるけれども、しかし他方、弁論の全趣旨により真正に成立したと認める丙第九号証の二四と証人市川良次の証言によれば、右事実と相容れず、右の同意書は沢田高一が被告組合の設立に際してこれに同意をして提出したものであるとする事実も窺われるから、結局本件においては、いまだ右の同意書による同意が同人の意思に基づかないものであると認めるに足りないというべきである。
したがつて、右の同意書による同意は、これを無効と解することはできない。
(53) 61 小林一江
原告光明院代表者尋問の結果により真正に成立したと認める甲第一七号証の二と同尋問の結果によれば、甲第一七号証の一の小林一江名義の同意書は、同人の弟である小林喜久が同人に無断で作成提出したものであつて同人の意思に基づくものではなく、同人は組合の設立に同意していなかつたことが窺われるけれども、右各証拠のみによつては、ただちに右の事実を認定するのにいささか不十分であると解され、結局、本件においてはいまだ全証拠によるも右の同意書による同意が、その名義人の意思に基づかない無効なものである(その疑いは払拭できないが)と認めるに足りないというべきである。
(54) 62 安西英太郎
甲第一八号証の一(同意書)によれば、安西英太郎の同意書は、その日付訂正の記載自体から、第一次新組合のときのものが流用されたものであると認められるところ、原告遠山三郎本人尋問の結果により真正に成立したと認める甲第一八号証の二と同尋問の結果によれば、安西英太郎は、右の同意書が流用されることについて、必ずしも判然とはしないが、了解を求められ承諾したことはなかつたことが窺われるが、右各証拠のみによつて、ただちに右の同意書が無断流用されたと認めるには、不十分であるというべきであり、本件においては全証拠によるもいまだ右事実を認めるに足りない。
したがつて、右の同意書による同意が無効であるということはできない。
(55) 64 小室敬治
原告遠山三郎本人尋問の結果により真正に成立したと認める甲第二〇号証の二と同尋問の結果によれば、甲第二〇号証の一の小室敬治の同意書は、第一次新組合の設立に際して同人が日付空白のまま提出したものを、同人に無断で日付を補充して被告組合に対するものとして流用されたものであることが窺われるけれども、他方、証人森田益太郎、同中村盛の各証言には、右事実と相容れない事実も窺われ、結局本件においては全証拠によるも右の同意書が無断流用されたことを認めることはできない。
そうとすれば、右の同意書に基づく同意が無効であるとはいえないことになる。
(56) 65 谷もと
原告光明院代表者尋問の結果により真正に成立したと認める甲第二一号証の二によれば、甲第二一号証の一の谷もと名義の同意書は、同人が作成したものではなく、同人は被告組合の設立に際してこれに同意をしていないことが窺われるけれども、右証拠のみによつてただちに、右の同意書による同意が名義人たる谷もとの意思に基づかない無効なものであると認めるはなお不十分であり、本件においては全証拠によるも右事実を認めるに足りないというべきである。
以上によれば、右の同意書に基づく同意は無効であるということができない。
(57) 66 清水金次郎
原告遠山三郎本人尋問の結果により真正に成立したと認める甲第二二号証の二と同尋問の結果によれば、甲第二二号証の一の清水金次郎の同意書は、同人が第一次新組合の設立に際して提出したものを、あらかじめ押捺されてあつた捨印を利用して同人に無断で日付を訂正したうえ、被告組合についてのものとして流用されたものであることが窺われるが、他方証人関野良雄の証言によれば、右の同意書の流用については清水金次郎の同意を得たとも窺われ、結局右各証拠その他の本件全証拠によるも、右の同意書が無断流用されたとは認めるに足りないことに帰する。
したがつて、右の同意書による同意が無効であるとはいえない。
(58) まとめ
以上によれば、原告ら主張の五八名の宅地所有者のうち、同意書の無断流用等によりその同意が無効であると解される者は、別紙(一)ないし(三)の9、10、11、12、14、16、17、18、22、26、27、28、29、30、31、32、34、35、36、39、40、42、44、46、47、48、49、50、51、52、53、54、59、60、63、72、73、74の三八名であり、無効であると認められない者は、その余の13、15、19、20、21、23、24、25、33、37、38、41、43、45、55、61、62、64、65、66の二〇名ということになる。
(八) 結語
以上検討したところによれば、被告組合の設立認可申請にあたつて法一八条所定の同意をしたとされる宅地所有者四四八名のうち、前記(三)の2、4、(四)の8、56、57、58、67、68、69、75、(五)の70、(六)の71の一二名及び前記(七)の(58)に記した三八名の合計五〇名については、法一八条所定の宅地所有者の同意としての効力が認められないことになる。
そうとすれば、被告組合の設立認可申請当時における宅地所有者の同意者数は、被告ら主張の四四八名から右の五〇名を差引いた三九八名ということになり、当時の宅地所有者総数六一九名の三分の二(すなわち四一三名)以上に達しないことは明らかであつて、この点において、被告組合の設立行為は、法一八条所定の宅地所有者の同意が法定数に達していないという組合設立行為についての根本的かつ重要な法規の違反があるものとして無効というべきであり、したがつてまた被告組合の設立認可申請にはその重要な実体的要件を欠くという重大な瑕疵があることになり、前記三で説示したとおりこれを前提とする本件認可処分は無効であるといわなければならない。
五 原告らは、さらに、被告組合は法一八条所定の同意を得るに際し宅地所有者等に定款及び事業計画に示していないと主張するので、この点につき付言する。
もとより、法一八条所定の同意は、定款及び事業計画についての同意であることを要するから、それらを宅地所有者等に示し、これについての同意を求めるのではなく、ただ漫然と組合設立の同意を求めることは、法一八条所定の要件を欠くことになり、そのような同意は法一八条所定の同意としての効力を有しないものといわなければならない。
しかるところ、これを本件についてみると、被告組合の設立運動にあたつた本件訴訟の証人ら(たとえば証人島田作次郎(第一、二回)、同魚見五作、同山下賀三、同森田益次郎)は、同意を得るに際し、あらかじめ定款及び事業計画を持参または郵送した、あるいは町内会ごとにその説明会を行なつた旨供述するが、しかし、その他の本件の証拠においては、右の事実を裏づけるものはほとんど存しないのみならず、むしろ本件においては被告組合の設立に際しては右のような手続は厳格には覆行されなかつたのではないかという疑いが払拭できないというべきである。その理由は次のとおりである。
すなわち、まず第一に、前記認定のように極めて多数の宅地所有者について同意書の無断流用あるいは無断作成が行なわれているが、それらの者は、被告組合の定款及び事業計画について同意したとは当然考えられないのみならず、そもそも被告組合の設立運動が行なわれていることすら知らない者がほとんどであつたと推認される。次に、本件において証人として出頭し証言した多数の宅地所有者のほとんどは、被告組合側の証人らの供述を裏づける証言をせず、むしろこれに否定的な証言が目立つたのみならず、第一次新組合と被告組合の区別すら知らなかつた者も多数存在する。さらに、特に事業計画についていえば、設立認可申請にあたつて被告組合が添付した事業計画書(原本は東京都からの取寄記録中にある甲第五三号証がこれにあたることは明らかである。)と同じ内容のものは被告組合から本件訴訟に提出されていないが、同意を得るに際して多数の事業計画書を準備したのであれば組合あるいは組合員が保管中のものを当然に提出できたと推測されるから、反対にこのことから当時はその準備はされていなかつたと推測する余地がある(なお、成立に争いのない丙第一七号証の事業計画書は、前掲甲第五三号証に対比して、細部の点につき相当異なつているので、当初準備されたものとは認められない。)。
したがつて、以上によれば、被告組合の成立に際して得られた法一八条の同意は、定款及び事業計画についての同意という要件を欠くのではないか、あるいは少なくとも相当に多数の者につきそれが妥当するのではないかという疑いが強いものといわなければならないか、本件では、すでに前記四で述べたとおり、被告組合の設立行為は法一八条の宅地所有者の同意につき法定数を欠き無効であり、本件認可処分も無効であると判断されるのであるから、ここでは右の点を指摘するにとどめることとする。
六 被告組合は、原告らの請求に理由があり、被告組合の設立が無効とされ、また本件認可処分が無効であるとされる場合、原状回復は事業上不可能であり、しかもこれにより生ずる多数の組合関係者の混乱はきわめて重大であることなどを理由として、行政事件訴訟法三一条一項の趣旨にのつとり原告らの請求は棄却されるべきであると主張する。
しかし、原告らの本件訴が抗告訴訟としての無効確認訴訟及び当事者訴訟であることは前示一のとおりであるところ、当事者訴訟はもとより無効確認訴訟に行政事件訴訟法三一条一項の適用あるいは準用がないことは規定上明白であるのみならず、本件のように組合設立認可の根拠要件を欠くという重大な瑕疵を有し無効とされる行政処分について、同条を適用することは、無効とした処分を事実上有効ならしめ、無効とした意義を没却することになるものであつて、一般には許されないものというべきである。しかも、本件は最高裁判所大法廷昭和五一年四月一四日判決(民集三〇巻三号二二三頁)とは事案を異にし、本件認可処分が無効とされることにより関係者に生ずることが予想される混乱を収拾し事態を解決することは、もとより法的にも事実的にも可能なのであるから、右法理にしたがうのはなおさら妥当ではないというべきである。
いずれにしても被告組合の主張は失当というほかない。
七 以上の次第であるから、その余の点について判断するまでもなく、本件認可処分は無効であるといわざるをえず、また、そうとすれば、原告らは、被告組合の組合員としての一切の権利義務を有さず、その区画整理事業の施行に伴う権利制限等を受けない地位にある(原告らと被告組合との間において、被告組合の設立は無効である。)ことになり、原告らの本訴請求はすべて理由がある。
よつて、原告らの本訴請求は、すべてこれを認容することとし、訴訟費用(参加により生じた費用を含む。)の負担につき、行政事件訴訟法七条、民事訴訟法八九条、九三条一項本文、九四条を適用し、主文のとおり判決する。
(裁判官 内藤正久 山下薫 三輪和雄)
(別表一、二)<省略>